【警告】
いわゆる処女作です。文章力の残念さ、文章全体の流れの悪さ。
特に酷い会話のやり取り。色々悪いところを挙げれば切がありません。
それでも脳内お花畑な私の妄想空間を垣間見たい方はどうぞ。

by.ユウ

　力が欲しかった。
　大切なものを守れるだけの力が。
　何も守れずに見ているだけはもう嫌だった。
　だから剣術から精霊魔法、闇魔法にまで手を出して力を貪欲に求めた。

　しかし、力を手に入れた今、
　本当に守りたいものを守れたのだろうか。


　深夜、目覚めると頬が濡れている。久しぶりにあの日の夢を見たようだ。やはり昨日の敗北が原因だろうか。
　決戦の地アストラ、その中でも特に難所と呼ばれる勇気を試すための階段。苔生した石の巨神兵、人の影から影へと渡る妖、幼くも力強き竜族の眷属、そして悪名高き「ニルヴァーナ」を操る幻獣。準備は重ねてきたつもりだが甘かった。甘かったとしか言いようがなかった。回復は全く追いつかず、メンバーが一人また一人と倒れていき、私が残った。
（あの時と同じはもう嫌だ！）
　無我夢中で皆を連れて階段を駆け下り、アストラに程近い森で治療を終えやっと人心地ついたところだった。
「むにゃふにゃ…さんまぁっ、さんまぁ…、大根おろし辛いぃ…」
　寝ているアメリアを起こさないように気をつけながら、マントを羽織って近くの小川へと歩く。厳しい残暑も終わり、日が落ちると寒いくらいだった。
「お、どうした、ユウが泣いているなんて玉葱でも…、つまり明日の朝飯はカレーかい？」
　見張りをしていたエリスが話しかけてきた。
「はずれ。残念ながら明日の朝はホットケーキ。ちょっと嫌な夢見ちゃってね。顔でも洗おうかと思って。」
　そう答えて私は小川のほとりへと歩み寄った。
「ホットケーキも好きだから何も問題ないがな！」
　エリスは笑いながら言うと、ふと真面目な顔になり、
「ま、話して楽になるなら話すといいさ。前に私のしょうもない身の上話も聞いてもらったしな。」そう言った。
「…そうだね、御代はホットケーキにたっぷりの生クリームとして、聞いてもらおうかな。昨日は少し疲れちゃった。」
　私は力無く微笑み、頼れる機械族の護衛にぽつりぽつりとしゃべりはじめた。


　王国へ帝国が戦争を仕掛けてから十年。両者は互いに疲弊しながらも依然として戦争を続けていた。
　当然僻地の治安維持に回す兵力などあるわけも無く、地方の村々は魔物、あるいは盗賊に怯えながら暮らしていた。

　私とアメリアもそんなとある村に住んでいた。
　十歳の頃に魔物により両親を失った私は、アメリアの家で実の娘と変わらぬ愛情を受けて育ち、慎ましくも幸せな生活を送っていた。
　十四のときに王立士官学校へ入学、三年後には卒業して帰郷を果たした。そしてそれから一ヶ月後、あの日がやってきた。


　その日はやけに暑い日だった…というのは後からこの日が特別な日だと分かっていたからだろう。村も山々も全てが紅に染まる夕暮れ時、突如として村の平穏が破られた。
「と、盗賊だぁ！ 女子供はすぐに隠れろぉ！」
　なおも凶事を伝えようと走る村人の背に容赦なく剣が振り下ろされる。血の饗宴のはじまりであった。
「アメリアとユウは早く隠れるんだ！」
　お父さんがそう言いつつ、慣れぬ手つきで剣を取る。その顔に幼い頃見た父親の最期の顔が重なり、ドキリとした。慌てて振り払い、
「大丈夫、剣や魔法の鍛錬は学校で毎日やったもの。それよりアメリアを守ってあげて！」
　そう言うと二の次を言わさず、長剣を取って家を勢いよく飛び出した。通りへ出ると惨状が広がっていた。むせかえるような血臭、人の体の焦げる嫌な臭い。時折あがる悲鳴と盗賊たちの歓声。しかし不思議と恐怖感はない。相手は数を頼みにした烏合の衆だ、頭をつぶしてから各個撃破していけばいい。驚くほど冷静に頭が回っていた。大丈夫、あの時とは違う。そう自分に言い聞かせながら、予め目星をつけていた村の中央にある広場へと駆け込んだ。すばやく左右に目を走らすと、シミターを担いだリーダーと思しき巨漢が一人、その左右に短剣を持った盗賊一人ずつ、計三人。
「あん？ 嬢ちゃんそんなもの振り回してると怪我するぜぇ？ 大人しくしてれば可愛がって…」
　皆まで言わせず、左手に隠し持った短剣を一閃させる。強烈な手ごたえが勝利を知らせた。頚部を斬られゆっくりと崩れ折る巨漢。初めて人を殺したというのに、むしろこれなら守れるという万能感で体が軽かった。
「お、親分！？ て、てめぇ！」
「あまが舐めやがってぇ！」
　左右の盗賊が駆け寄ってくるがもう遅い。
「我焦がれ、誘うは焦熱の儀式、サラマンダ！」
　詠唱の完成とともに、灼熱の蛇竜がゆっくりと舞い降りた。
「いけ！ こいつらを焼き払え。」
　命令とともに、炎蛇が灼眼で一瞥すると盗賊たちが炎に包まれ、絶叫を上げて転げ回る。やがて動くもののなくなった広場を後にし、他の盗賊を倒しに…村人を助けに走った。斬り倒す。刺し殺す。焼き払う。通りを走りながら、また一人、また一人と片付けて行く。火照った体に風が気持ち良い。いい気味だった。人を不幸にして自らが幸せになるような輩は、いざ自分が弱者に回ることなど考えもしない。悪事を働くことすら自分一人で出来ず、仲間とつるんで行うのだ。いつしか私は笑っていたようであった。


　目の前に家が見えてきた。どうやら村を一周してきたようだ。ふと家の前に居る五人の盗賊が目に止まった。お父さんが必死に応戦しているが、遠目にも既に傷だらけで、見るからに深そうな傷も見受けられる。再びその姿が実父と重なった。だけど今は私には“力”がある！
「私の大切なものを…返せぇ！ 闇よ、我が意に従え！ ダークレイド！」
　盗賊たちの影が槍衾と化し、一瞬にして串刺しにした。
「ひぃぃい！」
　残りの盗賊たちが戦意を失い、一目散に逃げて行く。
「逃がすか！ ダークレイ…」と術の詠唱中に何かがぶつかってきた。精神集中が乱れ術が中断される。「このっ！」
　かっとなって咄嗟に左手が短剣に手がかかり突き出そうとするその刹那、
「もういいから！ もう大丈夫だからっ！ もうやめて…、もうやめてよぉ、お姉ちゃん！」
　アメリアだった。手から短剣がぽとりと落ちる。大事なものを守りたかった、だから“力”が欲しかった。けど…、けど…。体を支配していた万能感が嘘のように消え、涙がとめどなく溢れた。どうしてこんなに悲しいのだろう。

　どれほどの間そのまま抱き合っていたのか。永遠にも感じたが実際には大して経ってなかったのかもしれない。ふと左手が赤く染まっていることに気づいた。咄嗟に繰り出した短剣がアメリアの横腹を傷つけていたようだ。今度は後悔より先に体が動いていた。
「アメリア…お父さんも応急手当をするのでこっちに来て！」
　その後は無我夢中だった。独学で学んだ白魔法、学校で教わった応急手当。もてる限りの力で治療を行った。回復魔法の温かい光に包まれた心地よい静寂の中、アメリアがぽつりと漏らした。
「うん、やっぱしお姉ちゃんはこっちの顔の方がいいよ。綺麗だしね！」
　満面の笑みだった。


「それでユウはプリーストの道へ進んだってわけかい。サラマンダ召喚と言えば中級レベルの精霊魔法だが…。」
　私が話し終えてから、やや間を空けてエリスが言った。空が白み始めている。大分長い間話していたらしい。
「怖くなっちゃったのよ、魔法を使うことが。人を斬ったときのあの手ごたえ。焼かれた盗賊の断末魔の叫び。それが頭を離れなくて、何度も夢に見て…。」
「だが守れたものもある、そうだろう？」
　確かに守れたものもあった。私が居なければお父さんは殺されていただろうし、アメリアやお母さんもどうなっていたか分からない。だけど…、もう少しどうにかならなかったのか。
「感情を抜きにして言ってしまえば、ユウがそのことで憲兵に追われることは無いし、殆どの人はその行為を“正義”としてみなすだろうな。」
「正義…、でもアメリアをあんなにも悲しませて、それが私の本当にしたかったこと…？」
「私の資質は“正義”だが、“正義”が何かって言われると困るけどなぁ。敢えて言えば私の場合は自分が信じたことってなるか。信念ってやつだな。」
　私の信じる正義。思い浮かばない…けど私がしたいことはわかる。守りたい、元々それだけだった。
「人は私利私欲だけで人を殺せるほど強くないもの。国のため。愛するもののため。神が言ったから。そして正義のため。いつだって理由をつけて、殺しあうの。」
　あたかも謳い上げるかのような声。ドワーフ族の少女、フィリアだった。
「アメリアの資質は正義じゃないし、ユウの資質も聡明じゃない。二人とも博愛だしね。正義とか信念で人を殺すには優しすぎたのよきっと。それにしてもユウはともかく、エリスが哲学的なことしゃべってるとまじ胡散臭いんだけど。」
　ジト目でフィリアが言い、そのまま手に持つ分厚い魔道書に目を落とした。
「生クリームたっぷりがかかってるんだ、これくらい造作も無いさ！」
　エリスが胸を張って言う。
「え、生クリームたっぷりってなぁに？ エリスだけずるいっ！ …で皆でなんのお話？」
　パーティーで一番のねぼすけ、アメリアも起きてきたようだ。一気に騒がしくなった。
「ユウが攻撃に参加する必要がないくらい、私たちが頑張ろうって話さ。」
「それならだいじょーぶ！ サラマンちゃんに今新しい芸を教えてるところだから、完成すれば絶対いける！」
　一通り話したからか胸のつかえが取れた気がする。やっぱり話してみて良かった。気負いすぎる必要はない。皆に任せて私はできることをやればいいんだ。
「そろそろ朝食にしましょうか。その前に皆顔洗って歯磨いてね。」


　そしていつも通りの一日が始まる。
　でもそんな大切ないつも通りを今は守ろうと思う。

　彼女たちは結局準備のため一度アストラを後にした。
　そして二ヵ月後、神器“エターナルデザイアー”をその手にした。