※所謂いつものアレ注意※ 

by.オートマタ

　激しい戦いの末、物語は結末へと向かう。
　ある者はその尊き命を犠牲にし、またある者は英雄に助力を与え、そして英雄たちは全ての結末へと辿り着く。
　全てを乗り越えたとき、一つの物語は終焉を向かえ、記録はそこで途絶え閉じられる。
　繰り返される英雄譚、同じ数だけ閉ざされていった物語の数々。
　そしてまた、一つの物語がクライマックスを迎え、その結末へと辿り着いた――


-Eternal Desire- Private Short Stories
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　Episode03　『ＭＥＭＯＲＹ』
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　――その姉妹が玄関の扉を開けたのは、もう日も沈み、月明が宵闇の標となる頃だった。

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　疲労と安堵の混じった色の表情が、扉を開け放った瞬間、驚きと歓喜の表情へと変ずる。内外を隔てるその扉の向こうに待っていたのは、彼女たちが予想していなかった光景。
「「「アストラ攻略、おめでとーう！」」」
　クラッカーが一斉に弾ける。
　扉を開いた彼女たちを迎えるように取り囲んでいたのは、彼女たちが所属しているギルド『レジェンヴィス』のメンバー。その、ほぼ全ての顔が揃っていた。中にはまだ新しい生傷を残す者もいるが、表情には一片の疲労も見せていない。
　心からの祝福で、激しい決戦の舞台から帰還した彼女たちを、迎えた。
「うわー、びっくりした！　すごいよお姉ちゃん、みんなが祝ってくれてる！」
「ありがとう、みんな……どうしよう、ちょっと照れるな」
　姉の腕を掴みながら、飛び跳ねるアメリア。そして姉・ユウの方は、皆から注目されている気恥ずかしさからか、視線を中空へと泳がせている。その様子を見、Quiet*Notesの快男児・ユテルが笑いを零した。
「そ……それにしても、もうみんな知ってるんだ、私達が魔王を退けたこと」
「そりゃそーだ、冒険局でもいの一番に貼り出されてたからな、『黒曜石が魔王グノ・レイを撃破！』――って！」
　彼女たちのパーティー・黒曜石は、ギルド内外を問わず注目されている。それは、他の冒険者たちに先駆ける攻略の“速さ”であり、それを成し得る“強さ”であった。決して“最速”ではないものの、あまたの冒険者の中で五指に入る実力である。
　勇気を示した彼女たちの活躍を、冒険局は大きく報じていた。
「おーし、立ち話はそこまでだ！　激戦で疲れてンだろ？　とりあえず主賓を席に着かしてから、パーッと祝おうじゃねェか」
　レジェンヴィスの新顔・ハイレオンが割って入り、少女二人をぐぐいと押し込む。華やかに飾り付けられた――ギルド一周年パーティの時のように、おそらく即席でこしらえたのだろう――中央の卓に席着かせる。背後の壁には『おめでとう』と、造花文字が飾られていた。わあっと、拍手とともに歓声が上がる。
　――本当、ここのみんなは、お祭り事が好きなんだな。
　目を輝かせている妹の姿を横目に、ユウは心の中で呟いた。

「料理できたよー！　はい、どーん！」
　給仕役のノルクが、山のように料理が盛られた皿を、中央の卓に置いた――否、たたき付けた。皿上の具材が小躍りし、卓が若干ミシッと言った、気がした。
　それを見た仲間のエドが、苦言を呈する。
「こらノルク君、君はもう少し力をセーブしたまえ……さっ、皆もお腹が空いたろう、まずは食事としようじゃないか」
「そーそー、おいらもお腹ペコペコだしね……ちょっとつまみ食いしてみたけど、このニニスさんの料理がまたすっごく美味し――あだっ！」
　ポカリ、と郁葉の握り拳が、スズの頭上にたんこぶを作る。風の導き手のメンバーによって、料理の皿が全ての卓へと運ばれた。
　汚れたエプロンを脱ぎ取りながら、セツナ・しーな・ニニスの三名が厨房から姿を現す。刹那、背後の厨房からラゼルの声が響く。一同は視線を戻した。
「サモンアニマル！」
「ンモォ～～～～」
　――どうやらもう一品、料理が確保できたらしい。

「はい、塀くん、好物のジャーキーですよ」
「かたじけない」
　壁にもたれる巨大な体躯に、アクラがビーフジャーキーを差し出した。体躯は、その大きな指でジャーキーを摘むと、口――らしき空洞に放り入れた。空洞の奥が微かに発光し、接ぎ目部分の隙間からも光が漏れる。消化しているのだろうか。その傍らでは、おそらく食べ過ぎたのだろう、腹をパンパンに膨らませて目を回したユテルとプリシラが、両サイドで壁に体を預けていた。
「それにしましても……すごいですね、アメリアさんの魔力。ポテンシャルが開放されて、すさまじい威力を誇っていたことが、この文面から伝わります」
　食事を一通り済ませた後、多くの者は黒曜石の二人が座る卓に集まり、オートマタが纏めた報告書に視線を落としていた。その激しい戦いの内容が克明に記された文書を見て、ニニスが言葉を漏らす。
　周りで見ていた皆も、感嘆の溜息を零した。
「アメリアも勿論頑張っていたけど……パーティーメンバー全員が一丸となって頑張った結果だよ。そう――みんな、お互いの力を信頼し合っていたから、成し得たんだと思う」
「信頼――か。そうだね、それはすごく大事だ……と思う。きっと、一人で何でもできると思っちゃ、いけないんだ」
　トーイが呟き、彼の仲間一人一人に視線を向けた。ニニスは照れくさそうに、ファリスは肩を透かし、プリシラは――ぷるぷると体を震わせながら、Vサインを決めている。ふと、その傍らで腕組む塀派の姿が、視線に飛び込んだ。
「フム……少年よ、折者も同じ意見にて候。折者、これまで一人旅にて候えども、この『めもりー』にはぎるどの皆の姿が『いんぷっと』されているでござる。武具や技術も、皆の力添えの賜物にて候。折者の旅は、断じて独りでは無いと思うてござるよ」
　腕を組みながら、塀派の指が僅かにVサインを作る。体躯に似合わないその様が、妙に微笑ましかった。トーイもクスリと笑顔を漏らし、小さく頷く。
　人だかりの中を潜り込んで、報告書を覗き込んだぽちが、尋ねた。
「ねーねーユウちゃん、そういえば願い事はどうなったの？　もう叶えちゃったの？」
「ううん、何でも、願いはこの島から出るときに叶えられるんだって。ここに居るうちは、まだ実現していないみたいだけど」
「何だそりゃ？　何つぅか、案外融通利かないんだな、エターナルデザイアーの力ってのは」
　ぽちの肩越しに、覗き込んでいた竹刀が呟く。
「まー、そりゃそーだよねー、願った途端に空からジャーキー１年分降ってこられても、困っちゃうと思うし」
「おい、ぽち……まさかとは思っていたが、本当にそれがお前の“願い”なのか……？」
　苦笑する一同。ぽち本人は「ほへ？」とした表情で、竹刀を見返していた。

　それから、報告書は各々に回し読まれ、その場のほぼ全員が確認を終える。
　皆、黒曜石の活躍ぶりに感嘆しながらも、浮上する一つの疑問に思考を奪われていた。一つ、二つと、口数が減り、僅かに沈黙が訪れる。その沈黙を破るのは、オートマタの一言。
「でも……二人は本当に、魔王を倒して、エターナルデザイアーを復活させたんですよね？」
　勿論、冒険局で発行された報告書に、嘘偽りなどは無い。
　彼女が、皆が、疑問に思っていた事――それは、それ以前の『存在』。
「何か、こう――ヘンじゃありません？　エターナルデザイアーは、先日完全に破壊された――って、伝えられていましたよね？　でも、その後もアストラへ辿り着いて、魔王を倒したパーティーがあって……黒曜石の皆さんも、今回それを成し遂げた――何か、おかしくありません？」
　オートマタの発言により、各人がうっすらと疑問に感じていたことは、全て共通意識だったことを知る。
　――そう、エターナルデザイアーを破壊したパーティーは、確かに存在していた。
　しかし、にも関わらず、彼ら全てが持つフェレスの導きは終わろうとしていない。それどころか、その後であってもエターナルデザイアーに辿り着いたパーティーがあると報じられ、そして今、そのパーティーがギルドにも在籍している。
　眼鏡を正し、難しい顔つきを浮かべたラゼルが呟く。
「……確かに、不思議な話だね。僕らも今、アストラへの道を進んでいる――その途中と言うべきかな。僕らの目的は、アメリアさん達とは違う……エターナルデザイアーの破壊、その為に――アメリアさん達の手の寄って既に斃された筈の、グッドマンとともにね」
　エソルテル砦までの道を切り開いたQuiet*Notesのメンバーは、現在は一旦身を引き、力を付けるべく各自修行を行っている。アストラへと続く階段へ戻れば、きっとそこにはまた、彼の姿が待っているのだろう――命を落とした筈の、グッドマンが。
　つい先程まで、グッドマンと冒険をしていた者も居る。シェンロンも、その不可解さに眉をひそめていた。
　再び訪れる沈黙。
　次いで、それを破るのは、ファリスの呟き。
「……異なる次元、か」
　視線が彼の元へと集う。いつもの薄ら笑みが消え、瞳を閉じて答えた。彼の雰囲気を読み取ったかのように、トーイの手中にある布袋が微かに明滅する。
「いや、ね――私がこのイススィールを冒険するのは、実は二度目なんだよ。一度目は……そう、ちょうど今の、灰城ロマルフで終わってしまったのかな。てっきり、時間が巻き戻ったのかと思っていたけど……もしかしたらあれも、今とは異なる次元のイススィールだったのかな？」
　今のイススィール以外――そもそも、それが“存在”するということ自体が想像し得ないのだが――を知らない者たちにとって、ファリスの発言は理解し得る内容ではなかった。あくせられーたの一員は、皆ぽかんとしている。
「はむ……何を言っているのかさっぱり解らないですけど」
「うちは、わかる……解ります」
　シーナが、答えた。
　深く深呼吸をすると、脳裏で言葉を懸命に探しながら、たどたどしくも語り出す。
「えと、ええと……うちもこれが、この冒険が、実は二度目なのデス。前は、他の人と冒険してて、それでうちのパーティーも、一度エターナルデザイアーを壊してて……で、その後霞ヶ丘に向かう途中で、弔いの断崖のところですごい霧に包まれて……で、落っこちちゃって、気付いたら装備とか、力とかも、全部無くなっちゃってて…えと、えと、それで――」
「……しー姉、何だか逆に解んなくなってるよ」
「うわん……」
　ハレルヤにたしなめられ、言葉を失う。
「でも――あたしは解るよ、しー姉の言いたいこと。それまでの周りの人の様子や、自分の力、周りの環境……そういうモノみんな、いきなり一遍に変わっちゃって――それが、同じ次元のモノだとは思えない、って事でしょ？」
　今の次元との相違。異なる次元の記憶。異質を感じる“答え”は、確かにそこに導かれていた。
　ハレルヤ自身は、おそらく異なるイススィールの記憶を持たない。しかし、それとはまた別の『異質』である彼女だからこそ、感覚で理解することができたのかもしれない。
「異なる、次元……記憶……」
　そう静かに呟いたのは、レジェンヴィスのギルドマスター・セツナ。
「――えっ、もしかしてセツ兄も？」
「ううん、僕はよく解らない、解らないんだけど、でも……」
　セツナが思い巡らせるのは、イクトルフの門に辿り着いた日の出来事。
　あの時、確かにセツナは、彼女にそう告げられていた。セツナ本人は、その記憶を全く持たない。しかしそれは、ファリスと同じ、シーナと同じ、帰結する回答を持つ、彼女が告げた真実――
「あちらのイススィールは、全て消えてしまったの。でも、私達の存在は、全てがこちらのイススィールにある。それが、真実」
「――！　プレア……」
　いつの間にか、彼女――プレアが、目の前に立っていた。その出現には、誰しも気付くことができないでいた。狐につままれた様な出来事に、目を白黒させる一同。
　しかしその彼女の言葉は、やはり常のように的を射ず、周囲を理解させるには至らない。
（異なる次元――それは冒険のときも、一緒……？　自分達が冒険した場所と、他のパーティーが冒険した場所は、異なる次元の、同じ場所……？）
　その場の全員が、深い思考の溝に嵌る。三たびの、長い沈黙。長い長い、沈黙。

「――だーっ！　いい加減にしろお前らッ！　訳分かんねェ、全ッ然訳分かんねェぞ！」
　耳をつんざく叫び声に、一同がはっと我に返る。
「どォだっていいじゃねェか、そんな事！　あァ！？　次元だかインゲンだか知らねェけどよ、今分かってンのは黒曜石の連中が魔王を倒してめでてェなって事と、それでも俺たちの冒険が終わった訳じゃねェって事だろ！　違うか！？　違わねェならそれ以上難しい事考えてンじゃねぇ！　メシがマズくならァ！！」
　皿に残った料理をすごい勢いで平らげながら、ハイレオンが一喝する。その、余りの勢いに一同は硬直するが、その中央で一人だけ、動きを見せる姿があった。
　やはり皿に残っていた料理に手を伸ばし、口いっぱいに料理を頬張ると、美味を満喫し一際の笑顔を零す。
「そーそー、分かんなかったらとりあえず、サラマンちゃんをぶつけとけばいいんだもんね。正義の道に、難しいことなんて一つもないわ！」
　自信と信念に満ちたアメリアの意思は、一切の揺らぎを見せなかった。言葉の受け取り方によっては危険思想なこと甚だしいが、シンプルな思想はそれ故に彼女の強さを象徴していた。
「クスッ――確かに、ハイレオンさんの言うとおりですね。ここは祝いの場ですし……今は純粋に、ユウさんとアメリアさんの成し遂げた偉業を悦び、分かち合いましょう」
　ニニスの一言で場は再び、宴の空気へと色を染めた。気難しい顔をしていた者たちも皆、表情を改め綻ばせる。
　いつの間にか、プレアの姿はそこに無かった。彼女の神出鬼没性は今に始まったことではない。巫山戯ているときの彼女は、彼女なりの独自の楽しみ方を見出している。きっとこの宴に乗じて、また何か妙な悪戯でも仕込んでいるのだろう。それもまた、いつもの事だ――そう思ったセツナは、彼女の姿を探すことを諦めた。
「あっ、そういえば……」
　ふと、オートマタが声を上げる。
「黒曜石の皆さん、これで冒険を終えたのですよね？　それで、願いが叶うのは、島を去ってからなのですから……二人とは、もうこれでお別れなのでしょうか？」
「……あぁ、うん、その事なんだけど」
　更なる不意の一言に、場は四たびの静けさに包まれる。質問を向けられたユウは、心で言葉を選び、周囲の顔に一つ一つ目配せながら、静かに問いに答えた。
「フェレスは全ての力を取り戻したみたいだけど……この島には、まだまだ多くの謎や、旅する場所が残っているみたい。妹も、『全ての悪が滅びるまで、この旅は終わらない！』……なんて張り切っちゃってるし。だから――みんなさえ良ければ、引き続きこの場所に居られたらな……って」
　控えめな彼女の発言を受けて、一同は互いに目を見合わせる。そして、弾けるように笑い出した。うろたえるユウの視線がセツナに向けられると、それに気付いた彼は、皆に向かって聞き返した。
「今更そんなことを言われても……ねぇ？　みんなは、どう思う？」
「当然」「異議なし」「当ったり前でしょっ！」
「……と、いうことだよ、ユウさん？」

　分からない事はまだ多くあるも、今はそれは関係ない。今答えの出ない事なのであれば、それは今答えを導く必要の無いものである。それならば、今やるべきことをやればいい。それらは一切、終わりはしないのだから。
　その日の宴は、夜遅くまで続いた――

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　エターナルデザイアーの願いは、島を離れたその時に叶えられるという。
　辛い冒険を耐え抜く糧となった願いである。できれば早く叶えたいという気持ちは、多分に存在するだろう。それが自らの幸せへと直結するのであれば、尚更である。
　しかし彼らは、直ぐに島を去ろうとはしなかった。
　フェレスの導く地以外にも、この島には多くの冒険の地が眠っているという。それらに臨む新たな目標という糧を、得たからかもしれない。
　若しくはもっと身近な、そして大切な、たとえ次元を超越しようとも、そこに確かに存在する糧を、得たからかもしれない。
　それは、これからも新たに刻まれていく、彼らの――



Episode03……ＥＮＤ

※いつもの…でも今回は無駄な言い訳しない※

今回のSSは、黒曜石PTのアストラ攻略に合わせて練っていた企画です。
冒険の目的であるエターナルデザイアーの復活（人に寄っては破壊か、新しい道もありますが…）、それをメンバー内で初めて成し遂げた人が居れば、少なからず他メンバーの心境にも影響を与えると思った訳です。
実際、今まさにアストラへの道を歩んでいるPTも、他にありましたからね。
でも、同じ目的地にあるエターナルデザイアーが、復活したり破壊されたり――
PTの数だけ、違う結末がもたらされる訳ですから、そのパラドクスを解消する何かしらの答えが必要だと思った訳なのです。
ということで、私なりの解釈が、SSの中の答え。
…と言いましても、かなり無理矢理で的を射ていない、強引な解釈なのですけど…
イススィール自体が多次元的に構成された世界で、不安定な存在であるならば、こういう答えの導き方もアリではないでしょうか？
…ダメ、ですか？（何
勿論、今回は私の妄想SSの中での出来事なので、他PCの方々の発言がそのまま、当人サマ方の発言にはなりません。
本来のPL意思とは一切無関係ですので、何卒ご容赦下さいませ。
…妄想遊戯という戯れの中のこととして、笑って赦していただければ幸いです…ひらに。

by.オートマタ