※注意書きになってない注意書き※ 
久々に妄想がはち切れんばかりに膨れ上がったので、放出してみました。 
先に懺悔しておきますと、人間の皆様ゴメンナサイ。 
悪気は無いのでご容赦下さい、実際人間素敵だと思いますし。 
そんな心ばかりのフォローを入れつつ、勝手な妄想解釈と同人要素に耐え得る程の鋼の魂をお持ちの方のみ、お進み下さい。 

Q.これが過去語りSS？ 
A.せつなますたーりすぺくと！ 

by.オートマタ

　その人形は、エリグヒドのとある名の知れた人形師さんが作ったそうです。
　彼が世に送り出した人形はどれも素晴らしいものでしたが、その裏では多くの失敗作が山積みにされていたそうです。
　そうした失敗作は、全てエイミリーフ地方の積木山に捨てられていったそうです。
　やがて人形師さんは、エリグヒドの民とともにエターナルデザイアーに心を委ね、そしてこの次元から消えて行ったそうです。
　捨てられ、残された人形たちの多くは、積木山に渦巻く怨嗟の魂を身に寄せ、人々を襲うようになったそうです。
　当然その人形も、そうなる筈だったそうです――


-Eternal Desire- Private Short Stories
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　Episode04　『ＦＯＲＴＵＮＥ』
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　「――何だか、的を射てない表現だねぇ……つまり、どういう事だってばよ？」
　ギルド『レジェンヴィス』の１階、ロビーのカウンターに男女が二人、腰掛けている。その女性の方――元々の性別は男性なのだが――スズが先に口を開いた。
　ただし、会話しているのはその二人の男女では無い。返答をしたのは、カウンターの上に置かれた“それ”であった。
　「んー、どーいうもこーいうも、私の中にある知識の上でしか、お話できないですから」
　「どうにもこうにも、まどろっこしいもんだねぇ」
　スズが頭を掻き、身を仰け反らせる。腰掛けた椅子の背もたれが軽く軋む音を立てた。隣に座り、頬杖を付いている男性――ユテルが、おもむろに口を開いた。
　「って事は、だ。お前は昔の事を、全ッ然覚えてないのか？」
　視線は、やはり卓上の“それ”に向けて、言葉を投げかける。“それ”――魂を持つ自動人形オートマタが、あっけらかんとした表情のままで投げかけられた問いに答えた。
　「そーなのです、そもそも私の記憶は“私”の記憶であって、この“人形”の記憶ではありませんからね。知識は共有してるみたいなので、その上でお話することは可能ですけど」
　頬杖を付いたまま、眉間にしわを寄せるユテル。
　「……あー悪い、全然意味が分からねぇや」
　んー、と指を口元に添えて、オートマタが視線を上に向ける。やがて向き直り、脇に置かれた台帳を取り出した。台帳には『ギルドメンバーに10の質問』と書かれている。
　「これ、ここの部分です。ほら、もともと“私”の魂と“人形”の身体は、別のものでしたから。私が覚えているのは、もともと人間だったころの“私”と、人形に乗り移った後の“私”の記憶だけ……みたいな？」
　その回答を得――結局更に眉をひそめたユテル。その脇で、スズは若干首をかしげながらも、小さく頷いている。
　「うーん……分かったような、分からなかったような……って、オートマタちゃん昔人間だったの！？」
　スズが一つの事実に気付き、身を乗り出した。
　「はい、人間でした！　ぴーちぴちの、17歳の女の子でした」
　「くそっ、残念！　手ェ出しとけば良かった！　――じゃなくって、人間仲間が増えていたかもしれなかったのに、残念だなっ！」
　最早手遅れとしか言い様の無い話題のすり替えに周囲の空気が重くなり、オートマタとユテルの顔に縦線が走った、ような気がした。

　そんな会話が建物内で繰り広げられていた頃、外の庭では二人の女性が顔を見合わせていた。
　両者とも真剣な顔つきで、互いを凝視し合っている。中の状況とはまるで180度違う意味での、重い重い空気。両者の鼓動が聞こえるかの如く、静かな空気。ひりりと張り詰めた空気。動かない空気――動いた。
　「だあああぁぁぁぁぁっ！！」
　先に動いたのは金髪の女性。模擬刀を掲げ、猪突の勢いで飛び掛った。対峙する空色の髪の女性は、身体を強張らせ模擬刀を腰元に構え、迎え撃つ体制を取る。迫り来る相手が間合いに差し掛かった瞬間、構えた武器を素早く横に薙いだ。同時に振り下ろされた模擬刀が激しくぶつかり合い、十の字を作る。
　鍔迫り合いの状態で再び拮抗し、互いの顔を睨み合った。
「うっ……くっ」
　備わった筋力の差か、空色の髪の女性が徐々に押される。金髪の女性が模擬刀を握る手に更に力を込めると、それに呼吸を合わせるように押された側は刀の軸を僅かにずらし、素早く横方向へと身を翻した。ずるりと勢いよく刀が滑り、押していた側の刀が地面へと振り下ろされる。大きく体勢を崩す金髪の女性。
「……ととっ、うわっ！」
　大きく隙を晒した姿を捉えるべく、今度は空色の髪の女性が飛び掛った。華麗なステップで離した距離を瞬時に詰め寄り、剣戟を浴びせる。前のめりに体勢が崩れた金髪の女性はそのまま前方向へ飛び込み、振り下ろされた刀を前転で回避した。
　再度距離が開くが、ここで空色の髪の女性が一気に畳み掛けるべく、素早いフットワークで距離を詰めた。
「逃がしませんっ！」
　地に膝を突き、体勢の崩れた状態の相手に容赦なく得物を振り下ろす。金髪の女性が危機を察知し、顔を見上げた。刹那、口元がにやりと歪み、八重歯が覗いた。
「――なーんてね♪」
　鍛え上げられた彼女の筋肉が躍動する。驚異的なばねで低く体勢を構え、刀を地に滑らせ、真上に切り上げる。勢いの乗った一撃は、振り下ろされた模擬刀を弾き、そのまま中空へと跳ね上げる。空色の髪の女性はその一瞬の衝撃に耐えられず、柄から手を滑らせていた。
　苦悶に身を捩らせると、金髪の女性の刀が、鼻先に突きつけられていた。
「チェックメイト、だぜ」
「……参りました。流石はハレルヤさんです、やはり敵いませんね」
　小さく溜息を付き、空色の髪の女性――ニニスが呟く。踵を返し、手から落とした模擬刀を拾い上げた。その肩越しに、ハレルヤ――と呼ばれた金髪の女性が、快活な声を上げた。
「いやー、ニニスちゃんも凄かったって！　ガッツ入れた瞬間に軸外されたときは、ホントやられた！　って思ったからなー。見事な戦術眼だったぜ」
　少し頬を紅潮させて、ニニスが振り向く。
「クスッ……でも、力はまだまだハレルヤさんに遠く及びません」
「はっはーッ、当たり前だってのー！　何たって、アタシは最強だからなー！」
　クスクスと、ハハハと、二種類の笑い声が響く。特にハハハの方は建物の中にまで響き渡り、座談する３人の耳にも届いた。

　　　　※　　　※　　　※

　常に、コンプレックスを感じていた。

　周りの人は皆、優れた能力を持っていた。
　逆に私は、あまりに平凡すぎて目立たない能力しか持たなかった。
　周りが凄いものだから、こんな私は本当に劣って見えた。
　このまま成長しても、ずっと足手まといにしかならないと思った。
　もしかしたら、他の可能性を見出せれば良かったのかもしれない。
　夢を諦めてしまえば、違った道で力を示すことができたかもしれない。

　そうしたら、今の私は居なかったかもしれない。

　　　　※　　　※　　　※

「――でも、やっぱり勿体無いなぁ、人間辞めちゃったのってさー」
「まーだ言ってんのかよ、このエロオヤジ……」
　スズの呟きに、ユテルが横槍を入れる。バツの悪そうな表情を浮かべるスズ。
「いや君、そういう意味じゃなくてだね――まぁ、ちょっとはそれも含まれてるかもしれないけど……って、それは置いといて。えーと……どゆ話だったけ？」
「だめだコイツ、早くなんとかしないと」
　この調子で、話は全く進んでいない。当のオートマタは、同様にカウンターに置かれた1/6グッドマン人形を陽気に踊らせている。手をグーに握らせ、胸の位置で交互に上げ下げさせる動き。どこかで見たことあるな――と、スズは思った。
　ちょうどそこに、手合わせを終えて汗を拭うニニスとハレルヤが、ロビーの扉を開け入ってきた。
「あれ、何か珍しい組み合わせだねー、スズが男と一緒に座ってるなんて」
「オイラって、ホントどう思われてるのかな？」
　言わずもがなである。そう思ったオートマタであったが、敢えて口にはしなかった。ハレルヤの横でニニスも苦笑いを浮かべている。
「それで、お２人――あ、オートマタさんも居るから、３人ですか。何かお話をされていたのですか？」
　ユテルの隣の席に腰掛け、ニニスが問う。
「はい、うら若き乙女の昔話に、花を咲かせていたのですよ」
　元うら若き乙女な。そう思ったユテルであったが、敢えて口にはしなかった。少し離れた位置で様子を伺っていたハレルヤが、カウンターに置かれた台帳に気付き、手を伸ばす。
「あ、コレ、ギルメン紹介用の10の質問じゃん。――あー、そうそう、オートマタちゃんも昔、人間だったんでしょ。そういえば、どうして人間辞めちゃったの？」
　開かれていたオートマタの回答ページに目を留め、ハレルヤが疑問を口にした。奇しくも逸れていた話題が元の軌道に戻る。グッドマン人形の動きを止めさせ、んー、と唸りながら瞳を閉じるオートマタ。少し間を置いてから、投げかけられた問いに答えた。
「えぇと……強くなりたかったから？」
　意外にも単純すぎた理由に、一同が肩透かしを食う。
「はぇ、何ソレ……って、ちょっと待って！　それじゃ人間のままじゃ強くなれないってこと？」
　ふと言葉の意味を邪推し、ハレルヤが口を尖らせた。彼女自身も人間である、オートマタの発言を見過ごせないのは、当然だろう。
「ぁ、気を悪くさせてしまったのであれば、御免なさい。そういう意味ではないのです」
　手を合わせ謝罪に頭を下げる。そして、そのまま話を続けた。
「ただ単に、私の目指していた夢が、人間の力では存分に発揮できないと思ったからなのです。決して、人間が弱いとか、そういうことを言いたいのでは無いのですよ。人間で強い人は、私だって沢山見ている訳ですし」
　そう補足を入れ、ロビーに居合わせた４人の顔を、一人ずつ見合わせていった。
「人間の強さって、無限大の可能性にあると思うのです。一つ一つの才能は、それぞれのスペシャリスト的な能力を持った種族に比べて、どうしても劣っちゃいますけど……でも、他の種族には真似できないような、いろんな事を試せる才能が、人間には備わっていると思うんですよね。ユテルさんやハレルヤさんのように力で敵をねじ伏せたり、スズさんのように回復で味方を護ったり……ニニスさんみたいに戦術次第でいろんな戦い方が出来たりもします」
　それに――と、オートマタは続ける。
「未知の力……人間にはまだまだ、明らかになっていない眠れる力があるって、聞きます。幸運を引き寄せる才能や、封印された覚醒能力……そんな、無限の可能性を秘めているのが、人間の一番の強さなんじゃないでしょうか？」
　思わず聞き入る４人の人間。頬を掻き、少し照れくさそうに耳先を染めるユテルが、尋ね返す。
「うーん……でもよ、じゃあ何でお前は、その可能性を捨てて人形になっちまったんだ？」
　その問いに、オートマタは少し寂しそうに笑った。彼女が見せた、初めての表情だったかもしれない――そんな、複雑な表情、複雑な笑顔。
「……私は、たった一つの可能性しか、見ていませんでしたから」

　　　　※　　　※　　　※

　あくる日の、レジェンヴィスのロビー内。そこにはある二人がもたらした、貴重な戦利品が飾られていた。
　一つは、まだ誰も見たことが無いような二属性を有する稀有な杖。もう一つは、彼女も欲しがっている老戦士の人形。
　それぞれの拾得者がその身に内包する、幸運を呼ぶ力。それは彼女が既に捨て去ってしまった、未知の力。
　羨ましいと思うことはある。でも、後悔したことは一度も無い。
　何故なら彼女は、本当に欲しているものを手にする為の力を、得ることができたのだから――


Episode04……ＥＮＤ