ソファから身体を起こし大きな欠伸をひとつすると、やたらとギルド中が静かなのに気がついた。
窓から差し込む光をしばらく眺めながら、あぁそうか、と呟き一人で納得する。


─Cookie Flavor─


天候の不調やなんやらの関係で、しばらく旅に出たりすることができなくなった。
再開の目処はたっているが、それでも鈍りに鈍った身体はいう事を聞かなくなってきていてムズムズする。
トレーニングにも限界はあるし、仲間相手のトレーニングに本気を出すわけにもいかない。

ソファから立ち上がると、半開きになったカーテンを開け放ち部屋を後にした。

シンと静まり返ったギルド内。
長期休暇で、みんな各々に出かけたり個々の部屋で休暇を満喫している。
１階まで降りてくると、甘い匂いがキッチンから漂っていた。
ドアの隙間からそっとキッチン内の様子を伺ってみた。

「あら、盗み見なんて男らしくないわよ？」
なぜばれたのか。
らしくないふりふりレースのエプロンを付けて、プレアが一人で何かを作っている。

「何作ってんだよ。また怪しい薬か？」
「ふふっ、何を期待しているの？」
冗談交じりに会話して、キッチン内の椅子に腰掛ける。
バターがいい具合にこげた匂い。
たまに香るメープルやチョコの匂いが、胃を刺激する。

机の上に並べられたクッキーの山から、そっと１枚抜き取り口へ運ぶ。


「……なかなかうまいじゃん」

思わず口に出した言葉を本人に聞かれた。
振り向き様にニヤニヤとした視線を向けられる。
なんだか悔しい気持ちになった。

気を取り直して、置いてあったレシピ本を手に取る。
ぱらぱらページを捲っていると、結構な頻度でグラムの微調整の書き込みやドッグイヤーなんかがある。
『この場合、粉を１０グラム足すと食感が変わる』
『砂糖少なめ、蜂蜜の方が深い甘み』
『温度調節必須』
などなど。細かい。
逆にここまでいくと、関心するくらいで。
しばらくの間それを眺めていたら、レシピ本が上に引っ張られ取り上げられた。


「私がお菓子作ってたら、変？」
「変じゃないけど、不思議な光景だな」

意地悪気な笑みを浮かべると、プレアがふふっと笑って、また型抜き作業に戻る。


なんか負けた気がしたから、クッキーをまた１枚、つまみ食いしてやった。