†† 警告 ††

人の夢は80%の妄想と15%の煩悩と4%の冒険結果と1%のリアリティで出来ています。
つまり───ウソ八百ならぬ妄想八百ってことです。
読んでいて気分が悪くなったり、見るに堪えないと思ったら
我慢せず直ちにブラウザBackして脳内から記録消去して下さい。
そのままにしておくと今後の冒険に悪影響が出るおそれがあります。

警告はなされました。覚悟は宜しいですか？
　　□ はい　　　　　□ いいえ

by.ハイレオンPL

【ED／62回冒険小話】『灰燼の玉座』


───燠火が消える。
炎と風を従え、暗く陰鬱な玉座に座り続けていた男は、急激に生気を失いつつあった。

「……貴様はクレスオールを蘇らせ、何をするつもりなのだ？」

視線の先にはミュウと呼ばれた美貌の娘が立っている。
エターナルデザイアーを欲すれば自分に求めろと言う───得体の知れない女。


「そいつァ訊くだけ野暮ってモンだろ、マフェリアリさんよ」

嘯く獣人の声は、廃王には届かなかった。
別段、男も聞かせるつもりで吐いた言葉ではないから構わない。
戦い終わった後、他には目もくれずに二人だけの世界に入って主義主張をぶつけ合うNPC…そんな姿を見るのはこれが初めてではないからだ。

「恨みにしがみついていては、何もかも止まったままよ」
「───魔王グノ・レイの前に……不条理な希望は、沙汰の限りよ……ッ！」

力尽きて沈む王の屍を、湖面のように揺るがず見送る女。
約束された予定調和。繰り返し赤黒く血を飲み込んでいく、深紅のベルベット…。



「どちらさんも胡散臭いこって」
「しーっ！レオ兄、聞こえるアルよっ」
「どうせ聞いてやしねえって。あっちはあっちで盛り上がってるんだからよ」
「もー。シリアスなシーンが台無しアル…」

まだ、お伽噺に浪漫を求めたい年頃なのだろう。
PTの魔法火力を担う中華少女ユエがガックリと肩を落とせば、回復担当セリスが慰めるようにポンと肩を叩く。

「ユエちゃん…。ハイレオンさんだもの、仕方ないわ」
「何気に失礼だな、アンタ」

顔を顰めたハイレオンが、ちらりと背後に視線を送る。

「正直アンタにだけは言われたかァなかったな。
───そこでカーテン喰ってるぞ、おたくの羊ども」
「きゃー！！！　駄目よみんな、そんなの食べたらお腹壊しちゃう！」

あわてて羊の群れを追い回すセリスをよそに、ハイレオンは次のパワースポットである『デスァ闇沙漠』へ思いを馳せるのだった。



【どっとはらい】

【ED／63-64回冒険小話】『月がとっても丸いから』


ガンガンガン！
けたたましく中華鍋お玉でを打ち鳴らしながら、ユエは満面の笑みを浮かべた。

「ハイハーイ！今夜はレオ兄のリクにお応えして肉料理ヨ～♪
刮目し、平伏して待つと良いネ！！」
「能書きはイイからさっさと飯出せ。材料は揃えたはずだぞ」

先程飛竜から肉を剥ぎ取る役目を任されていたハイレオンが唸りを上げる。
空腹は人の心から寛容さを奪うものだ。
───まあ彼の場合、常に寛容さから程遠い人物像である訳だが。
ソレはさておき、今回は夕食後の腹ごなしをかねて『弔いの断崖』と呼ばれる場所へ足を伸ばす予定となっていた。
戦いを前にした高揚感に空腹が重なって、男は少々落ち着きがない。
口寂しさに胸元を探り取り出した煙草だが、ケースの中身は既に空で小さく悪態をつきながらグシャリと握りつぶす。
補充するには街まで出る必要があるというのに、今夜はケチが付きまくりだ。
気を遣ったセリスが「食事前ですから食べ過ぎちゃダメですよ」と釘を刺しつつ、肉まんをひとつ渡してくれる。


と、そこへ何処までも脳天気な声音が、不意の来客出現を告げた。

「ふっふー♪コンバンハっ！　なか噂でスゴくてスゴ強い王様？　とケンカしにいて勝たって！！」

カユプティ・フォーアニック。
昨今、パーティのメンツと付き合いのあるエルフの弓使いだ。
見かけは14～5の少女だが、これで23歳というから恐れ入る。
何せ口調が舌っ足らずで、言ってる内容の半分以上が理解不能なのだ。
どちらかといえば子供が苦手なハイレオンとしては敬遠したいタイプの筈だったが、どう間違ったやら妙に懐かれているきらいがあった。
溜息をついて、捲し立てるプティの開きっぱなしな口へ肉まんを押しつける。

「喧しいんだよ、お前さんは。
で、こんな時間に何の用だ？」
「へ、こんなじかん？」

きょとんとした顔で見上げる姿は、完全に愛玩系小動物の域を出ない。
彼女としては、他人を訪ねる時間かどうかというのは思考の枠外であったらしい。

「こんな時間は仕方ないでしょう。
私たちも同じような時間帯に冒険をしていますから、空き時間は同じようなものですよ？」

プティの背後に、いつの間にやら砂色のローブに引き摺りそうな長い赤髪の三つ編みを巻き付けた青年が立っていた。
ナイズィー・イサ。
これまたPTと縁の深い竜族の魔術師だ。特にハイレオンとの付き合いは島に渡る前の時代に遡るようで、腐れ縁に近い。
殆ど条件反射のように、ハイレオンは顔を顰めた。

「ノイズ…アンタまで油を売りに来るたァな。つくづく暇人揃いなこったぜ」
「貴方にじゃありませんよ、そちらのお嬢さん方へお祝いに来ただけです。灰城攻略の」
「…そうかい」

ケッ、と吐き捨てて手持ち無沙汰げに顎をなぞる。
そんなハイレオンの様子に眼を細めて、ノイズは懐から優美な線を描く煙管と寄せ木細工の小箱を取り出した。

「一応、貴方にも祝いの品は持参したのですけれどね。
これからは月が見頃ですから───月を肴に一献ならば、無粋な紙煙草よりこちらが似つかわしいでしょう？」

かたり、と男にしては細い指先が寄せ木の幾つかを動かして小箱を開く。
中には一見して上物と判る刻み煙草が納められていた。
プティは、中身よりも寄せ木の仕掛けが気になるようで「わー、わー！すご、すごぃ～」と声を上げて覗き込んでいる。

「今日は随分と気が利いてるじゃねェか」
「そろそろ切らす頃だと思ったので。しばらくレーッドテラスに詰めていたでしょう？」

見透かされているような口調は少々居心地が悪い。
舌打ちしつつも、一服分の葉を摘めた煙管に火を入れて肺の奧まで煙で満たす。

───すっと苛立ちが消えていく。


「ああ、言い忘れてました」

他愛ないことのように、ノイズは微笑みを浮かべたまま爆弾を投下した。

「その小箱は開ける度に寄せ木の仕掛けが変わりますから。力ずくで開けようとすると爆発しますよ」
「はあ？！！」
「頭の体操には丁度いいレベルです」

にっこり。

「酒は兎も角、煙草は百害あって一利無し。
昨今煙草の値上がりが激しいですし、禁煙治療なら早いほうがいいですよ？」
「てめェ……嫌がらせか」
「とんでもない。
愛してますよ、イサギ。心から───ね」

ぞわわっ。
ちろりと唇の端から紅い舌が覗いた瞬間、ハイレオンは弾かれるように距離をとった。

「……羊の群れに隠れられると、流石に傷つきますけど？」
「煩え！前の姿ならいざ知らず、そのナリで冗談にならねェこと抜かすからだッ」
「小さい頃はあんなに可愛かったのに…」
「ええー！？レオ兄の小さい頃？どんなどんな？」
「聞た聞きたー！ふっふー♪」
「どんな猛獣だって、幼少期は愛らしいものですからね」

てんやわんやの大騒ぎである。
今日の断崖行きは無理かしら───と思いつつ、セリスはユエに放棄されて焦げかけたチンジャオロースの鍋を手に取った。


「あら、これピーマン入ってるけど……ハイレオンさん、食べられるのかしら？」



【オチ無しEND】

【ED／77-79回冒険小話】『沙漠の年越し』


「ハイな、レオ兄」

おもむろに掌を表に向けて突きつけられたユエの手を、ハイレオンは不思議なものでも見るように眺めた。
どう見ても手の中は空だ。

「なんだソレは」
「何だソレ、と言われても～」
「…呑み過ぎなら病院行くか、ウコ○の力でも飲んで寝ちまえ」

折しも今日は大晦日。
雪でも降りそうな空模様だったが、あいにく真冬だろうと何だろうと闇沙漠の空は雨以外のものを降らせる意志がないらしい。
薄暗い氷雨は一層の寒々しさで一行を包み込み、それに対抗するように”お屠蘇”から始まった飲酒が一同に回り回ってきている頃合いだった…のだが。

「あんな水に毛が生えたノで酔う人なんて、ワタシの故郷にひとりもいないネ！」
「それが花も恥じらう10代の小娘の言うセリフか…」
「それよりもっ、正月と言って子供が手を出したら───決まってるネ！」

ずずいずいと詰め寄ってくる少女から、男は微妙に視線を逸らす。

「レオ兄はこのパーティで唯一の大人。甲斐性なくてもお年玉用意する義務があるヨ」
「都合のいい時だけ子供面すんな。装備新調したばっかで、俺だって先立つものァねーんだよ！」
「そんなんじゃ嫁の来手がないアルヨ！！」
「煩せえ、余計なお世話だッ」
「ホント、レオ兄がこんなじゃ───いざというときにワタシも安心してお嫁さんに行ってられないネ…」

言いたい放題である。
これ見よがしに溜息をつかれ、ハイレオンのこめかみにも青筋が浮かんだ。

「テメエが運良く男捕まえたからってなァ…。大体その彼氏はどうしたよ？また迷子か。構われなくて欲求不満じゃねェのか？」
「なっ！そんなコトないアルね、レオ兄のエロ中年ーっ」
「だァれが中年だッ」

「もー…いいかげんにしなさぁい」

なんとも緊張感のない声で二人の間に割って入ったのは、つい先程まで酔いで爆睡モードだったセリスだった。
あまりの騒がしさに目が覚めてしまったらしい。

「ご近所メーワクです…」
「ご近所ってな───」
「いいからそこに座りなさいぃー…」
「───ハイ。」

ヤバイ。笑顔ではあるが、目が据わっている。
触らぬ神に祟り無しというヤツで、二人は並んでセリスの前に正座する羽目になった。
と、そこへ来客が。


「えっと、あの…ごめんね、少し迷子になったみたいだ」

困ったような照れたような笑顔で現れたのは、ユエの待ち人だった男だ。
たちまち少女の頬が薔薇色に染まる。
おいおい、さっきまでと全然顔つきが違うじゃねーかよ。と八つ当たり？されまくっていたハイレオンが、見るに堪えないカップルのやりとりを胡乱な眼で眺める。
ウサギの菓子やらをお互いアーン、なんて始めた辺りでばかばかしくなってきて目をそらした。
すると、逸らしたはずの視界には……また別のバカップルが出現していた。


「…こうするとセリス以外何も見えなくなってしまいそうで怖いんだよ」

そんなことを言いつつそっと肩を抱き寄せるのは、楽師らしい繊細な指。
セリスが大人しく抱き寄せられているのは、酔っているからではないのだろう。というか、酔いも吹っ飛んだような瞳で恋する男に熱い秋波を送っている。
全くいつの間に現れて、いつから始まっていたのやら。


「おいおい…正月から勘弁しろよ」

げんなりとした表情を隠しもせず、ハイレオンは独り手酌で酒を呷った。
あの調子では二人とも恋人達の世界から帰ってはこないだろう。今宵はもう、独り寂しく酒を友にするほかない。
せめて続きは余所でやってくれ───とは思うが、下手に近寄って馬に蹴られるのもゴメンだ。
呑んでやる。少なくとも此処にある分は一滴残らず呑み尽くしてやる。
三人共同で買った酒だったが、文句は日付が変わって受け付け終了。新年の営業は七日からどうぞ───だ。




ふと、人の気配で目が覚めたのは年替わりの鐘もとっくに鳴り終えて、静まりを見せはじめた深夜だった。

飛ぶ力のない、ひよこのような小さな片翼は───それでも純白。
ぺたり、と頬に触れた華奢な指はひんやりと冷たい。

「……なんでお前が居るんだ？」
「リクエスト。膝枕で子守歌でしたの、自分で言って忘れました？エルは逃げたりしませんの」
「…ああ」

そういやそんなことも言ったな…とぼんやりした頭でハイレオンは思った。
年頃の娘が出歩くには遅すぎる、ましてや過保護な姉が張り付いている少女が出歩ける時間でもない。
───だからこれは夢だ。
出てきたのが最近気になっているこの少女なのは、きっと脳内物質のサービスなんだろう。
やばいな、夜が明けたら天使狩りが待ってるってのに。痩せても枯れてもあれは中ボス…───

「…歌はエルの知ってる子守歌でも？レオさんの育った地方のは分かりませんし」

さらさらと、少女の亜麻色の長い髪が頬から首を柔らかく愛撫する。
目を瞑ってしまうのは惜しいが、酷く瞼が重くて…。
歌が始まった。
切ないメロディがくりかえし、繰り返し───


ちょっと待て。

「これはアレか、死亡フラグってヤツか？」
「はい？」
「何か将来の約束とかして、決戦に向かうと見事討ち死に、っていう噂の」
「なんの話ですの？？」
「いやいや、いくらなんでも。あの双子天使相手で死亡はねえだろ。せめてアストラのアバオアクぐらいなら…」
「もしもしー？レオさん寝ぼけてますの？　ねーさまが待ってるからエルは帰りますね」

すとん。
膝から頭を落とされて、そこからたっぷり5分。
我に返って飛び起きた時には、既に少女の姿は影も形もなく。
手の中に残されたのは、残り香のような…一本の亜麻色の髪。


ともあれ。
その日───Pt『＿月心天＿』は、眠れるオアシスの双子天使を撃破。
何かに憑かれたかのように僅か三が日でロクマリア陵の女神ユテァリーテまで蹴散らして、闇沙漠を踏破した。

侵攻時に必要なのは時に勢いかもしれない。
理由や原因はさておき。



【勝手にしやがれEND】