－注意－

当ＳＳはレラＰＬによるレラの故郷のお話です。
とは言え、当ＳＳ中にレラは出てこず、そもそも生まれてすらいないという完全に『背景』のお話です。
作成動機はＰＭふぁの人に設定分かりにくすぎ、といった趣旨のツッコミを受けたことにあったりします。
要するに非常に自己満足な設定資料的なものになっております。

・基本的に暗いお話です。
・超短いです。読み応えゼロ。…これ以上ここだけのキャラを掘り下げても仕方ないからですが……
・文才もゼロ。ここは言い訳不能。
・ミュウルートネタバレ有り。ミュウルートに悪意は毫もないのですがミュウBAD ENDといった風情です。
以上、悪い予感がしたら戻るをぽちっと。
関連メッセ：第44回・第46回・第48回、前期第201回・第205回

by レラ

――さようなら、永遠を知るものよ。私は深い封印の眠りの中で、あなたを見守っているわ


ミュウの言葉が余韻を残して途切れると、そこに在るのはフェレスの光と、襤褸を纏った一人の男だけになっていた。
魔王グノ・レイの遺した破壊の風は嘘のように止み、クレスオール達の姿ももはやない。
一つの物語が終わった、その静寂だけがそこにあった。


勝ち残ったのは、襤褸の男。
男は今まさに魔王を斃し、全てを叶える力を手に入れていた。
しかし、その歩みは輝かしい未来に弾むことはなく、昏く重く沈んでいる。
「……くそったれ、め」
口を開けば、誰へとも知れぬ怨嗟が溢れそうになる。

『君が胸に抱き、旅の支えとなった偉大な夢は、イススィールを去る時に叶えられるだろう』
告げられたばかりの残酷な言葉が、未だ鮮血を迸らせ続ける胸に染みてゆく。

『クレスオールが死んだ時、エターナルデザイアーは失われた』
いつかミュウが語った昔話が、もはや音を感じない耳の奥でうるさく反響する。

「後はあいつと何不自由無い暮らしをしてめでたし…だと思ってたんだが、ねぇ……」
喉笛を斬り裂かれた魔王の最期の一撃は、罅割れた鎧を砕き割り、男の臓腑を抉り取っていた。
―――紛れもない致命傷。彼の物語はもう、続かない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



未練がましく足を引き摺り、朽ちた剣を杖代わりに進み続ける。
港へ向かうだけの時間はない。手当ての暇もなくこの命は燃え尽き、秘宝はその力を喪うだろう。
男にはそれが分かっている。分かっていて、なおも進み続ける。

「ったく…また、泣かせちまうじゃねえか……勘弁しろよ、本当」
自らのフェレス――恋人のくれたお守りに目を落とし、苦笑を洩らす。

旅立ちの日に恋人の見せた涙。これが彼女に流させる最後の涙だと決めて、ここまで戦ってきた。
親類を病で亡くし、苦しい生活を続けてきた彼女に、戦うことしか能の無い自分が幸せを与えてやれる。
その唯一の方法……それが、全能の秘宝エターナルデザイアー。
それを手に入れて、二人で幸せに暮らす―――その筈、だったのに。

「…そうだよ。ただ俺は、あいつを泣かせたくなかっただけなんだよ…な」
なおも身体を引き摺る。行き先は見えないが、終着点はすぐ近くにある。

「あーあ、死にたくねえ。死にたくねえなあ―――」
進み続ける先、その足元の大地が途切れる。…ここが、目的地。


「じゃあ、頼まぁ…『あいつが泣かない、傷付かない…優しい世界を、与えてやってくれ』」
最期の力が地を叩き、身体が前へと投げ出される。


そうして男の身体は、断崖から『島を去った』。
秘宝は、一瞬の内に『願いを叶える力』を解き放ち―――ひとつの願いだけを叶えて、その力を永遠に喪った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


　此処は、優しい世界。『外』から隔絶された隠れ里。
　彼女の他に、殺し合い糧としあう動物は、此処に居ない。
それでも光と水で生きる半人半樹の樹精たちが住まうこの地は、話し相手には事欠かない。
植物達は互いに心を通じ合わせ、故にお互い、嘘偽りは差し挟まれない。
樹精たちは男の行方を知らず、故に彼女に対し偽ることもない。
樹精たちは余りに長命で、彼女を遺して死ぬ者はいない。
出会いはなく、別れもない。どんな種類の悲しみも訪れない、優しい嘘に包まれた閉鎖世界。
そこで彼女は、樹精たちと共に男の帰りを待ち続ける。その寿命が尽きるまで、待ち続ける。

彼女はその後、涙を流さなかった。それが幸せだったか否かは、もはや確かめる術も無い。





to be continued…