Episode02『ＴＲＡＮＳＭＩＴ』
※ちぅい書き※
by.オートマタ
またヤツが暴れ出しました。そう迷惑な妄想ワールドです。
早くも省略したい気満々ですけど、同人的要素とか苦手な人には勘弁系。
PCどころか終いにはNPCにまで魔手を伸ばす始末。
身勝手なイメージが一人歩きしたSSですので、誤解しないで上げて下さい。
多分。
これらをクリアーできる聖者的な皆様は、ゆっくり読んでいって後悔すれば良いと思うよ。
夜の闇は、言葉を持たない。
何も伝えてこなければ、何を伝えてもただ吸い込んでいくだけ。
だから、誰も言葉を求めない。
そうやって、闇は生きてきた。
-Eternal Desire- Private Short Stories
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Episode02 『ＴＲＡＮＳＭＩＴ』
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クシャリ、とぞんざいに何枚もの報告書を握り取り、眺める。１枚、また１枚、ゆっくりと読み進めながら――気だるい目つきで――内容を吟味していた。たまに、昔の報告書と最近のそれとを比較しては、フン、と鼻であしらう。
「おーおー、最近はオートマタの奴も、活躍してやがんなぁ。こりゃもう本気で、火力じゃ敵わないってところか。犬っころとアクラには、始めっから敵ってねーしな」
口をへの字に結び、空いた手で頭をボリボリと掻き毟る。「ケッ」と毒づくと、報告書を無造作に散らし、そのまま床に仰向けた。空いた窓から生暖かい風が抜ける。うっとうしく眉をひそめ、おもむろに起き上がると、窓の方へと歩み進めた。外はいつもの景色が広がっている。
レジェンヴィス２階――あくせられーた一同の為に割り当てられた小部屋。今はマイルーンの忍者、竹刀の姿しかここには無い。彼の仲間であるアクラとぽちは、今は下のロビーで夕食を食べている。オートマタはそもそもロビーを根城にしているので、部屋に顔を出すのは冒険の相談時ぐらいだ。
いつもは人員が揃うとけたたましいぐらいだが、一人で居ると部屋の中は静寂そのものである。
（俺に出来ること――か）
窓から下を眺め、胸の中でそう呟いた。冷たく、鋭い目つき。かつて狼と呼ばれた男は、最近はその野生味もあまり表面に出さず、丸くなったとよく言われる。しかし決して失われた訳ではない、ただ眠っている、眠らせているだけなのである。
視線を脇に動かす。ナイトテーブルに無造作に置かれた銀ナイフが、灯りに反射してギラリと光る。包み込む静寂。
刹那、どたどたと掻き鳴らされる階段の音が響いた。佇む男は小さく溜息をつくと、窓を半空きにして踵を返した。
「ただいまー、ラゼルの手作りなめらかプリン、美味しかったクマー！」
「はむ、竹刀くん散らかしすぎですよ、何やってるんですか」
アクラは扉の前で留まったが、屈託の無い笑顔を浮かべるぽちは足元の惨状に気付かず、そのままづかづかと部屋に入り込み、紙で足を滑らせた。
「わぷぷ」
「あー、わりぃな、今片付ける」
尻餅を付いたぽちを横目に、けだるそうにのそりと動き出し、散らばった紙を拾った。ふと、ずっと昔の報告書に目が留まる。今ではもう見ない、とある人間の名前が記されていた。
（そういえば、あいつも言ってたな……自分はいつも役立たずだって――）
少し手を止め、鼻で息を付くと、すぐさま掻き集める作業を再開する。その微かな動作に、ぽちとアクラの二人は全く気付いていない。全てを掻き集め、纏まった報告書の一番上を覗き込むアクラ。
「はむ、前回の冒険の報告書ですね。オートマタちゃん、この時の記憶が無かったって言ってますけど、凄かったですよ。最後の攻撃は珍しく重撃を決めてましたし」
少し目を細め、片眉を上げて、竹刀も報告書を見下した。
「……あぁ……そうだな」
そう呟くと、視線を窓の外の虚空へと向けた――
※ ※ ※
「いっ……いやあああああぁぁぁぁぁぁあーっ！！」
オートマタの金切り声が、レジェンヴィスの朝を告げた。
何事かと、数人のギルドメンバーがどたどたと階段を駆け下りる。彼らの視線の先には、無残な人形の前にして膝を突いた、人形。
「わっ、私のっ、良男人形がぁ……」
青ざめ、声を震わせるオートマタ。その眼前に横たわっていたのは、切り裂かれ、ダガーナイフが突き立てられたグッドマンの人形――人形使役する彼女の、最もお気に入りの武器であった。
「うわっ、これは酷いなぁ……誰がこんなことを」
真っ先に駆けつけたセツナも、惨状を目にして口を押さえた。以前から彼女の人形は――彼女自身を含め――プレアの持つハムスターの標的にされてきたが、今度ばかりは犯人が違っていた。突き立てられたダガーナイフがそれを物語る。
「えうっ、えぐっ……酷いよぉ……びゃうぅー！」
「落ち着いてオートマタさんっ！幸いにも、そこまで酷く痛んでいないから……きっとまたエクトルさんに頼めば、直してくれる筈だよ。今からなら、きっと次の冒険にも間に合うから……ね？」
ぼろぼろと泣き出すオートマタを、ラゼルがなだめた。彼の言うとおり、ここは人形のプロフェッショナルであるエクトル・エシューに、修繕を依頼するのが良いだろう。かつてオートマタ自身が経験したときの様に。えぐっ、えぐっ、と呼吸を少しずつ整えながら、抱きとめるラゼルの肩にしがみ付くオートマタを、皆が悲痛な面持ちで見守っていた。
――と、おもむろにダガーナイフを抜き取ったぽちが声を上げた。
「あれ？くんくん……これは竹刀君のダガー！」
実際に臭いで判別できたのかは知らないが、確かにその柄に刻まれた文様は、見覚えがあった。皆が一同に、得物の本来の持ち主へと顔を向ける。
当の竹刀は、ギャラリーの最後方で様子を伺っていた。
「……ん？あぁ……そりゃあ確かに俺の得物だな。どこにやったのかと思ってたが……そうか、こんなところにあったか」
ぞんざいに、ぽちからダガーナイフを受け取る。ユテルが掴み掛かり、声を荒げた。
「おいっ！何だそりゃあ！この状況見といて、どういう事か分かってんのかよ！？まさかお前がやったんじゃないだろーなっ！？」
「――俺の得物が使われてたから、俺が犯人か……？」
目を細め、静かに竹刀が呟く。ぞくり――言い知れぬ悪寒がユテルを襲い、掴んだ手が離れる。その隙に手を払い除けると、泣き崩れるオートマタに目もくれず、静かに階段を上りその場を去った。
場に訪れる沈黙――オートマタの喘ぐ声だけが響いていた。
「えぐっ……竹刀さんの、ばかぁーっ！！」
※ ※ ※
夜陰に蠢く黒い影。
その者は、草葉でじっと息を殺していた。近づく男の姿。草葉に背を向け、息を吐く。カサリ――草の葉が触れ合う音がした。にわかに男が呟く。
「手筈は……整った。後は実行のみ――」
言いかけて、直ぐにその場を離れる。隣の建物から、人が出てきた。そっぽを向いている……大丈夫、気付いてはいまい。男は安堵し、路地の裏へと消えた。
※ ※ ※
部屋に居たのは、ぽち・オートマタ・アクラの３人のみ――この日は、竹刀のみが席を外していた。朝の一件で、彼と他メンバーとの間には、険悪なムードが漂っている。ボロボロになったグッドマン人形は、その日のうちにエシュー家に送られた。大きく開いた窓からは、生暖かな空気が流れ込んでくる。
３人が輪を作って座り込み、次の冒険についての話し合いに興じる。
「……んじゃ、方針はこれで決まり？でも竹刀君はどうするのん？」
「知りませんよ、あれから何にも言ってこないですし。あれだけ疑いが掛かって、平気でいる方がおかしいですよっ」
言い放つアクラの言葉に、オートマタは何も答えない。気もそぞろといった感じで、外れたネジを指で弾き、転がしている。
事実、竹刀に掛けられた疑惑の目は、レジェンヴィス全体に広がっていた。元々好ましい雰囲気を作らず、近寄りがたかった彼に対しての理解者は少ない。ましてや今回、同パーティメンバーにまで嫌疑を掛けられていては、周りの目は余計に厳しくなるだろう。ロビーで夕食を摂る竹刀の元に、近づく者は誰一人居なかった。
――やるしか、ないか。
暫くロビーでくつろいで居た竹刀が、静かに立ち上がった。食器も片付けず、踵を返し足早に階段へと向かう。一直線に、彼等の部屋へと向かっていった。
バタム！勢いよくドアを開ける。中に居た３人の視線は、ドアの方向へと向けられた。冷たく細めた目つきの竹刀が、そこには居た。手に持つは、飛び苦無。
刹那、３人の足元に、苦無が刺さる。咄嗟に身体を上げると、各々――無造作に置かれた――力の源たるフェレスの元へと駆け寄り、握り締めた。
「し、竹刀君？これはどーゆーことクマー！？」
ぽちが訴えかける。しかし竹刀は、容赦なく刃を彼へと向けていた。
無言で繰り出されるスタンクロー。鉄爪を弾かれ、ぽちの体勢が崩れる。
「はむ、どういうことなのですか、竹刀くん。答え方によっては容赦しませんよ」
「うるせぇ、すっ転んでな」
言い放つと、続けざまに攻撃を繰り出す重撃のモーションでアクラの懐に潜りこみ、スタンクローを決めた。手にした砂塵杖が彼女の身に傷が付くのを防いだが、大きく武器を弾かれた衝撃で、アクラも身体をよろめかせる。
「良男人形さんが居なくても、私にはこれが……！」
サラマンダーリムを手に取り、オートマタが集中力を高める。
「来たれ焼鳥、ほーよくてんしょー！」
眼前に魔法陣が展開され、燃える翼・ファイアバードが召喚される。炎は一直線に竹刀へと向かうが、竹刀も咄嗟に印を結び、火遁の術を放って応戦した。
ゴオオッ！！炎と炎がぶつかり合い、激しく弾け飛ぶ。幸いにも室内の家具には着火しなかったが、爆炎が視界を塞ぎ、３人とも思わず顔を覆った。炎がかき消え、顔を上げると、そこに竹刀の姿は無い。
「ど、どうしたの！？……えぇっ！ちょっと壁が焦げてるよ……？」
騒動を聞きつけ、慌ててセツナが飛び込んでくる。冒険者向けの建物なので多少頑丈には作られているが、この惨状を目の当たりにしては、家主としてショックを隠せない。
「はうっ、御免なさいセツナさん……でも今はそれどころじゃないのですよっ！途中で竹刀さん見ませんでした！？」
「ええっ、竹刀さん……？ううん、見てないけど」
セツナの部屋は、あくせられーたの部屋よりも奥に位置する。つまり、竹刀が奥へ向かっていたなら、セツナとすれ違っていた筈だ。そして、爆炎は部屋の外の視界まで遮っていた。つまり――
「わんわん！きっと外だわん！追えー、逃がすなクマー！」
本気なのか、ふざけているのか、ぽちが叫ぶ。その声に呼応するように、一同は階段を駆け降り、レジェンヴィスの外へと出て行った。後先の事は全く考えもせず、脇目も振らずに。
そして、男は部屋に居た。
「やれやれ……相変わらず単純バカな奴らだな。気配を殺して身を隠すのなんて、忍者の俺には訳ないっての。まぁ、ここまでうまくいくとは思ってもいなかったがな――そうは思わねーか、おい？」
薄ら笑いを浮かべる竹刀。開け放たれた窓の虚空に、同意を求める。虚空は答えた――侵入者という形で。
飛び込んできた影は２つ。片方は、竹刀にも見覚えのある相手だった。悪辣で不敵な笑みを浮かべ、手に爆弾を躍らせている。
――トレーベ。
かつてフェクトナ湖渡口で、彼等の行く手を阻んだ盗賊だった。一度は退けた相手だが、どうやら諦めていなかったらしい。下卑な笑い声を上げ、威圧して見せる。
「ヒャハハハハァーッ！自分から一人ンなってくれるとはなァ！フェレスを持ってかれちまったのが計算外だが……まぁいいだろォ。順番に消し炭にしてやるぜ、まずはお前からだァーッ！！」
トレーベが爆弾の導火線に火を付けた。彼の傍らに立つ女性の姿に、竹刀は見覚えが無い。出方が分からなかったが、躊躇していては爆弾が爆発してしまう……そうなれば部屋はめちゃくちゃだ。それだけは避けなければならなかった。
「クックックッ……10、９、８、７……６５、４――なにッ！？」
「遅ぇーよ」
余裕をかますトレーベの隙を突き、一瞬で間合いを詰めて仕掛ける。手にしたサイトレスペインを横一線に薙ぐ。トレーベも咄嗟に反応し、身を仰け反らせると、暗器の刃が胸元を掠めた。
「……ひ、ヒヒッ、あぶねーじゃねェか、だがハズレだコラァー！」
トレーベの得物が、逆に竹刀を襲う。素早く持ち手を切り返し、暗器の峰を使って打ち払った。トレーベの手が滑り、ナイフが弾け落ちる。
「チッ……だが爆発だー、食らえーッ！」
逆の手に持っていた爆弾を投げつけた。傍らの女性が、タイミングを合わせるようにして魔法弾を浴びせる。どうやら足止めを誘発する魔法のようだ、ダメージとともに僅かに身体が硬直する。
「ちっ……鬱陶しい」
「そら、ドカーンだぁ！――なんだとォ！」
爆発は、起こらない。導火線が、途中で切り落とされていた。横に薙いだサイトレスペイン――狙いはトレーベではなく、その手の爆弾、その導火線。
すぐさま体勢を立て直し、うろたえるトレーベに掴みかかる。そのまま押し込み、窓の外へと放り出す。そのまま、自らの身体も中空へと翻した。
「トレーベッ！」
女性も後を追って、窓から飛び降りる。窓の下、庭先での攻防。片膝を付いたトレーベが投げつける爆弾を、竹刀が次々と無効化させていた。
「足を捻った！アンシー、回復の魔法だ！頼むッ！」
「させねぇよ、おら！」
集中力を高めようとする女性――アンシーに向けて、スタンクローを放った。小さく悲鳴を上げて、体勢を崩すアンシー。集中力が途切れた。トレーベが庇うようにして、横に並ぶ。
「くウッ、何なんだお前……前はこんな強く無かっただろォー！」
投げつけられた台詞に、竹刀が口をへの字に曲げた。
「うるせーよ、俺だってそりゃ成長するっての。素早さでは誰にも負けるつもりが無いんでね――さて、そろそろ力が溜まったぜ、お見舞いしてやるよ……強烈な一撃をなっ！」
サイトレスペインを後ろ手に構え、力を解き放つ。刃から禍々しい妖気が溢れ出した。竹刀の目が鋭く光る。あまりの凄みに、トレーベは足が竦んだ。
「ひイィッ、そ……そいつぁ、まさかッ！」
「冥界の死神の力だ……魂ごと食われちまいなっ、デッシュ！！」
横一線に薙ぎ払われた妖気が、一気に放出される。凄まじい轟音とともに、壁に一文字の跡が刻まれた。襲い掛かった波動は――トレーベ達の頭上をすり抜け、果たして壁へと向けられていた。
泡を吹き突っ伏すトレーベ。ガタガタと震え動けないアンシー。
轟音を聞きつけて、ぽちが現場に駆けつける。
「……ん、おぉ、気付いちまったか。まぁ、もう終わった後なんだがな」
「えー……竹刀君、つまりこれ……ってかさっきのは、どういうことなの？」
状況が掴めず、困惑するぽち。アクラとオートマタも合流した。
「どうって、見ての通りだろ。こいつらがまたお前らのフェレスを狙ってたんだよ。お前ら揃いも揃って、大事なフェレスを置きっ放しにしてるから、こうやって狙われる――んがっ！」
竹刀の額に、投げつけられたサラマンダーリムが直撃した。
「ってー…な、何しやがんだッ――」
「ばかっ！どーして一人で戦っちゃうのですかっ！！」
憤慨するオートマタ。目には、うっすらと涙を浮かべて。微かに差し込む街燈の光に照らされ、竹刀もその表情に気付いた。思わず口をつぐむ。
「危ないじゃないですかっ！相手二人いますし……やられちゃったらどうするのですかっ！何でもっと、早く話してくれなかったんですか……ッ！！」
おそらく、竹刀は気付いていたのだろう、最初から。グッドマン人形の一件で、自らに嫌疑の目が向けられても、一切の弁解をしなかった。話して分からない仲間では決して無い。しかし、竹刀のこの選択が、彼女達にとって逆効果であったことに、気付いていなかった。
「はむ、私達は仲間じゃなかったのですか？オートマタちゃんの言うとおりですよ、話してくれないと分かるものも分からないでしょうに」
「わんわん！拳で語るのはおいらだけで十分！」
アクラとぽちも続き、叱咤する。
「お前ら……ケッ！大体な、お前らがのほほんとし過ぎてるのが悪いんだよ！どうせ口で言ってもポケーっとして直ぐに行動に移さねーだろ！あの時点で窓の外に張り付いてやがったんだよ！少しは注意力を身に付けとけってんだ！」
照れ隠しの為か、３人に背を向けて、常以上に毒づいてみせた。その様子を見、３人の顔にも笑顔が零れる。赤く染まった竹刀の顔は、夜陰に紛れて窺い知ることはできなかった。
最後に到着したセツナが、誰にも届かない声で、こっそりと呟く。
「竹刀さん自身も、ダガー奪われていたことに気付かなかったんじゃ……これは言わないでいた方が良いよね、やっぱり」
※ ※ ※
巷を騒がせた爆弾魔はふん縛られ、翌朝になって近隣区の警備隊によって捕えられた。人的被害はほぼ無かったとは言え、多くの物損による被害が生じた。セツナが出した被害届は受理され、建物の修繕費を何とか賄うことができたが、それらの被害は、本来はギルドメンバーの手によるものだったことを、知るものは少ない。
――言葉にしなければ、それは誰も分かるまい。
とかくこの件に関しては、それが真理である。人の認識など、ひとつの疑念が生じれば、全体の認識としてその方向に固まる。それがたとえ誤解であったとしても。
しかし勿論、例外は存在する。
あくせられーたの部屋――そこには、布団に包まれ、床に横たわり、窓際で丸まり、ナイトテーブルに座り込み、ぐっすりと寝入る４人の姿があった。
Episode02……ＥＮＤ