※ちぅい書き※ 

そろそろ省略してもいいよね。 

いつものですよー、逃げてー。 

※こっそり、参考冒険結果※

by.オートマタ

「わ、私……ラゼルさんのお嫁さんになります！」 
　ラゼルは固まった。 
　ついでにセツナとユテルも固まった。 
　プレアはと言うと、ほくそ笑んでいた。 


-Eternal Desire- Private Short Stories 
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ 
　Episode02.50　『ＬＯＶＥ？』 
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ 

　レジェンヴィスの２階、Quiet*Notesが集う部屋――机に突っ伏して頭を抱える男が居た。トレードマークの眼鏡を脇に置き、座談する他パーティメンバーの声も耳に届かない。むしろ耳の奥ですっごい騒音がゴチャゴチャと鳴り響いている気分に苛まれている。 
　男の名はラゼル・レアカインド。 
　セミロングに伸ばした細かな銀白の髪、体格も男性として見れば華奢な方で、露出させた肩口の瑞々しい肌質は、どことなく艶らしさも感じさせる。遠目で見ると、女性と間違われてもおかしくはない。そんな男がうじうじと机で縮こまっているものだから、そしらぬ男性がこの光景を見れば、よこしまな気持ちで声を掛けてしまってもおかしくはなさそうだ。そして、その後ものすっごく後悔してしまいそうだ。 
　多分プレアは、そんな展開をこっそり妄想していたのだろう。座談しながらも目線がラゼル方向から離れず、ひたすら浮ついている。周りの二人もそれに気付き、悩める子羊へと視線を向けた。 
「……ラゼル、あの……ちょっと、外の空気を吸ってきたら？」 
　おもむろにセツナが立ち上がり、ラゼルの肩に手を掛けようと――したところで一瞬手が止まった。肩越しに覗かせたラゼルの顔が、サラマンダでも乗り移ったのかと思うぐらいに赤い。セツナの顔も思わずひきつる。 
「ラゼル……もしかして……」 
「うるさい、慣れてる訳ないだろ、こんなの……頼む、ほっといて」 
　本気で悩んでいた。 
　ギルドメンバーである人形の少女オートマタに、唐突に愛の告白されてしまったラゼル。相手がそもそも生物であるかどうか等は、この際どうでもいい――とりあえず現段階ではどうでもいい。告白されてしまったこと……これが、ラゼルの気持ちを悶々とさせる原因であるということは、最早言わずもがなだった。 
　そのあまりの子羊ぶりを見て、ユテルも思わず吹き出す。滅多に見られないラゼルの照れ顔をその目に焼き付けようと、隠すように置かれた腕の隙間から無理矢理に覗き込んだ。 
「いーじゃんいーじゃん、結婚しちゃえよもう。結婚相手が人形って、何かすげーと思わない？　うん、すごく、すげー」 
　なんて言っている。――こいつ、メドルったろーか……ラゼルのこめかみに筋が走った。 
「そ、そんなこと言うもんじゃないよ、ユテル。どんな人であっても、きっと恋とかはするものだし……それに、気持ちの整理とか……さ」 
「うん、で、兄貴はどうなんだよ」 
「……あ゛」 
　セツナの顔もサラマンダ化する。頭を抱えて硬直する男が二人。そしてプレアは最早笑い転げていた。 

　　　　※　　　※　　　※ 

　夜、ラゼルは外に居た。 
　テラス用のテーブルと椅子を持ち出し、軒先で街燈の灯りを頼りに、魔導書にかじり付いている。気分転換でもしないと、やっていられない状況だった。 
　――取り巻きはやかましいし。 
　それでも気はそぞろで、２～３ページめくっては、ついついオートマタのことが脳神経を駆け巡る。何度かその状態に陥っては、古典的に頭を振って再び本にかじり付く動作を繰り返していたが――周りから見れば余程滑稽な動作であっただろう――、暫くして溜息を付くと、静かに本を閉じて、星瞬く夜空を見上げていた。 
（何故、俺なんかを……） 
　オートマタとは、それほど付き合いが長い訳ではない。ギルド・レジェンヴィスが発足されたのは１年以上前ではあるが、オートマタの所属するあくせられーたがギルドに加入したのは、ほんの３ヶ月程前のことだ。にもかかわらず、人の心はこうも早く進展するものなのだろうか。 
　――瞳を閉じ、今までのことを思い返してみる。 

　オートマタが報告書を纏めてくれるので、その度に頭を撫でた。 
　プリンが好きだと聞いたので、プリンを作って差し入れた。 
　ハムスターに襲われたときは、真っ先に見つけて助けを呼んだ。 
　グッドマン人形が壊されて泣き叫んでいたところを、抱きしめて宥めた。 
　ハレルヤのデコピンで倒れていた時も以下略。 

　――どう考えても、フラグ立て過ぎだった。 
（……とりあえず、今日はもう寝よう。いつまでも悩んでいても仕方が無いな） 
　最後にもう一度大きく頭を振り、腰を上げた。ずっと同じ体勢で居たので、膝と腰が若干軋む。気付くと、人の通りも殆ど無い……だいぶ長い時間を、外で過ごしてしまった様だ。建物の中からは一切の声も漏れてこない。さすがにもう、みんな寝てしまったのだろう。 
「ふあぁ……さすがに眠気が」 
　あくびを噛み殺し、静かにレジェンヴィスの扉を開けた。 

　ガタン！バタバタッ―― 

　暗闇に包まれるロビー内で、影が音を立てて動いた。 
「……ッ、誰だ！？」 
　影は、どうやらカウンターの裏へと隠れたらしい。しん、と辺りが静まり返った。先日のトレーベの件もある――泥棒かもしれない。閉じた玄関の前で、ラゼルは身構えた。 
　重く苦しい空気が漂う。影もラゼルも、微動だにしないまま時間が流れる。 
（炙り出すしかないか……サモンアニマル！） 
　建物内で、大きな攻撃力を持つ召喚魔法はさすがに使えない。小さく囁き念じると、空間に魔法陣が描かれる。魔力をカウンターの裏に向けて誘導し、得体の知れない相手へとサモンアニマルを放った。 
　ハムスターでもカラスでも、出てきてくれれば相手の動きを牽制できるだろう。……牛が出てきたら、知らない。しょうがない。 
　ラゼルの位置からは暗くてよく見えなかったが、魔法陣がカウンターの向こう側で開いたようだ。牛の声は聞こえないので、多分成功だろう。――途端に、金切り声が響いた。 
「ぎにゃああぁぁぁあーッ！！」 
　聞き覚えのある悲鳴。 
　果たして、オートマタが飛び出してきた……ハムスターに噛み付かれながら。 
「……え……ええぇッ！　お、オートマタさんッ！？」 
　慌てて空間に魔法陣を描き、ハムスターを送還した。天敵は消滅したが、それでもオートマタは泣き止まず、混乱している。咄嗟に抱きかかえ、背中を擦り、宥めた。 
「ご、ごめんね、オートマタさん……まさか君だとは思わず。と、とりあえず奥の部屋に行こうか。ここだと二階にも声が響いちゃうよ」 
　ぴーぴー泣いているオートマタを撫でながら、足早に奥の部屋――メンバーの会合などに使われている部屋――へと飛び込み、中央のテーブルにオートマタを座らせた。少し落ち着いたらしい、すんすんと鼻音を立てている。 
　暫くその様子を心配そうに眺めるラゼルだったが、ふと我に返り、目の前につい先日告白された相手が居ることに気付く。にわかに顔が赤らんでくる。息を詰まらせ、慌ててそっぽを向いた。 
「ちょ……ちょっと失礼、何か持ってくるね！」 
　カクカクな動きで、そそくさとキッチンへと向かった。背を向けたまま、冷蔵庫を開けたり閉めたり――下を開けては、上を開けて、また下を開けてと、もどかしいぐらいに同じ動作を何度も何度も繰り返している。 
（どうすればいいんだ……こういうときって……） 
　いつもは親しげに笑顔を振りまける相手なのだが、どうにも意識してしまい、直視できなくなってしまっている。自身の心臓が、常以上に高鳴っているのが分かった。ゆっくり、ゆっくりと深呼吸を行う。長い沈黙。オートマタの視線を感じる気がした。 
「あ……あのさ、オートマタさん」 
　沈黙を破る。開いた冷蔵庫の扉に手を掛けたまま、オートマタに背を向けたままで。 
「その……この間の話だけど……さ。何ていうか、その……俺も、あまりにも唐突だったから、こう、上手く答えられなくて……その……」 
　しどろもどろになって、何を言っていいか分からない。視界がぐるぐる回る。……何とかしなくては。 
「そ……それで、その……ほら、とりあえず、さ……こう、いい機会だし……ね？　だから……この機会に、ゆっくり話してみよっか……あっ！　ほら、プリンもあるから、これでも食べながら――」 
　目を泳がせていると、作り置きのプリンが入っていることに気付いた。咄嗟に左手に取り話題に上げ、振り返って見せようとする―― 
　――と、オートマタが思いっきりこちらを覗き込んでいた。ラゼルの息が詰まる。幼い風貌ながら、艶やかに潤んだ目つき、紅潮させた頬、震える口唇。小さな小さな乙女が、テーブルから直接、ラゼルに向かってダイブした。 
「お嫁さんにして下さああぁぁぁ～～～いっ！！」 
「えええぇぇぇぇ～～～ッ！？」 

　びったーん。 

　――当然、テーブルからキッチンの距離まで届く筈が無く、そのまま空しく床へと墜落した。真っ青な顔つきで、プリンを手にしたまま慌てて駆け寄るラゼル。途端、けたたましい笑い声が響いた。 
「あーっははっははははっははっは！　はははっ、はひっ、はひっ……こ、これは、ひどい…っくははははははっ！！」 
　部屋の奥、テーブルクロスの下から転げ出した人影。呆気に取られたラゼル……しかし爆笑する声の正体に気付くと、げんなりした顔つきで溜息を付き、おもむろに部屋の明かりを付けた。影の正体が露わとなる。 
「……で、これはどういうことなのかな、プレア？」 
　純白の衣装に身を包んだ少女が、お腹を抱えて転げまわっている。しかも若干涙目。 
「あはははは、もー最高、こーんなにうまくいって、こーんなに面白いことになるなんて……あはっ、予想以上ってものだわ、くふふふっ！」 
「つまり……『お嫁さんになれば、毎日プリン食べられる』――みたいなことを、オートマタさんに吹き込んだってことなのかい？」 
「あははははっ、そーそーその通り……はっ！！」 
　お腹をよじって、節操なく笑い転げていたプレアの表情が、一瞬にして固まる。顔を上げ、ゆっくりと振り向く――ラゼルの身体が、竹刀のデッシュもびっくりな程の殺気に包まれていた。赤い瞳が、灼熱の如く揺らめいている。さーっと、音が聞こえた気がした。 
「きたれサラマンダ……炎纏し火竜……」 
「え、ラゼル、ねぇそれ本気……？」 
「本気」 

　イレフュの力+２！ 

「にぎゃー！　ってここ、建物の中……っ、来ないでー！！」 
　逃げるプレア、追うサラマンダ。怒りに身を任せ、思わずサラマンダを召喚してしまったが、もうどうにでもなれ。そんな風に脳内でプレアに死刑宣告を下すと、ふと空の左手に気が付いた。持っていた筈のプリンが無い。 
「はううっ……プリンおいひっ……はむうっ」 
　当然というか何というか、やっぱりオートマタが咀嚼していた。この世の至福とも思える表情で。 
　そんな素顔に、怒りに打ち震えていたラゼルの表情も、思わずほころぶ。 
「クス……どう？　美味しいかい、オートマタさん？」 
「ひゃいこーでふっ！　……んーっ、およめひゃんになりまふっ」 
　至福を一口一口、噛みしめるようにして、ゆっくりとスプーンですくったプリンを口に放り込む。もきゅもきゅと口の中で転がし、舌先でとろけるプリンの味を愉しむ。口いっぱいに甘さが広がったところで、するりと喉頭に流し嚥下する。そして至福をまた一すくい。 
　気付くとラゼルも、声を上げて笑っていた。そして、美味しそうにプリンを頬張るオートマタの頭を撫でる。彼女がプリンのカップを空にするまで、何度も、撫でた。 

　何度も、何度も、撫でていた。 

　　　　※　　　※　　　※ 

「ゼェ……ゼェ……私は、いつになったら、助けてくれるのかな……」 
　キッチンを通って、ロビーへと抜け、そのまま玄関から飛び出していたプレア。 
　それでもサラマンダは、執拗にプレアの後を追いかけて来る。それなりに広いレジェンヴィスの敷地の周りを、ぐーるぐーると周りながら、ただひたすらに逃げ回っていた。 
　夜が明けるまで、ぐーるぐーると―― 



Episode02.50……ＥＮＤ