※ごちうい※
このSSは妄想成分・自己満足成分・御都合設定成分が多めです。
一部、公式設定の二次創作妄想的なこともしちゃっています。
そおいうものに抵抗のある方、不快感を示されるという方は、閲覧をお控え下さい。
あと、ものすごく長いです。
ものすごく長いので、勇気を持って閲覧されるという方はお覚悟下さいませ。

トイレは済ませましたか？
急な用事はございませんか？
睡眠は十分に取りましたか？
辛くなったら途中で休憩する気構えはお持ちですか？

準備が宜しければ、スクロールしてお進み下さい。

by.オートマタ

　夏だ！
　海だ！！
　イススィールだ！！！
　照りつける太陽の下、潮の香り立つ白き浜辺に降り立ち、波しぶきと、歓喜の声と、男のロマンが奏でるアバンチュールの三重奏。
　今年もこの希望の島に、暑く熱い季節がやってきた……

　※ポロリはないよ。


-Eternal Desire- Private Short Stories
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　Episode Summer　『ＶＡＣＡＴＩＯＮ！』
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「うおおおおっ！　海だ海だっ！　行くぜ兄貴、俺が一番乗りだー！」
　既に海パン一丁になっていたユテルが、多くの海水浴客でひしめく砂浜へと降り立ち、一直線に海へと駆け出して行った。後ろを歩いていた兄・セツナが慌てて制止しようとするが、時既に遅い。
「ええっ！？　ちょ、ちょっとユテル、ダメだよ、まずは準備運動してからじゃなきゃ……って」
　ざっぱあぁぁん、と波打ち際にダイブし、しぶきを躍らせていた。不幸にも近くに居た一般客が、びくうっとしている。正直、予想はしていたが……顔を引きつらせ、セツナは小さくため息を漏らした。
「こらー、ユテルくーん？　周囲の人に迷惑を掛けちゃだめだぞー？　良い子にしていないと、我らが父の罰が下るぞー？」
　派手な柄の海パンに、これまた派手なアロハシャツ、そして黒いサングラスという、やけに夏の海に似合いそうな出で立ちの天使・ファリスが声を上げて呼び掛ける。冗談なのだろうが、彼がこういう事を言うと正直洒落になっていない、気がする。
「あはは、はしゃぐ気持ちも分からなくも無いかな。せっかくの海水浴なんだし。さっ、みんなも先に遊んでるだろうし、俺たちも早く行こう」
　同じく準備万端のニルスが、うずうずした様子で残る二人を急かした。賑やかな海辺一帯の雰囲気が、自然と訪れた者たちの心を躍らせる。三人は頷き、小走りに白い砂浜へと降り立っていった。

　秘宝の島・イススィール――多次元的に存在し、各地からの冒険者が訪れるこの島も、夏の季節には海開きが行われる。
　それは半分は、より多くの冒険者を誘致しようという冒険局の狙いもあるのだろう。勿論そうでない一般の観光客の数も少なく無いのだが、何よりこの島は多次元の影響を受けてか、季節感が特に際立っている。それ故この季節はバカンス地としての人気も高く、狙いの通りかどうかはさておき、海水浴場周辺は多くの人で賑わっていた。
　そんな中に混ざって、同じく休暇を楽しむ冒険者の姿も数多く見かける。冒険者にだって娯楽は必要である。一時的に冒険局が閉まると、それを機に海へと繰り出す者も少なくない。中には海の家を開き商売を始める、逞しい冒険者の姿もちらほら見られた。
「むぅ、潮風が身に染みるでござる」
　そう呟きながら焼きそばを炒めているのは、巨大な機械侍・塀派であった。ひときわ大きな鉄板の上で、二刀流のヘラを巧みに操り、香ばしいにおいを辺りに漂わせている。三角巾と前掛けが、機械の身体に妙にマッチしていた。
　更にそこから程遠くない距離に、かき氷屋が開かれていた。仮設小屋の中はひんやりとした空気に包まれ、一帯の海の家の中では特に人気を集めている。ここの店主はと言うと……
「私は空、私は風、私の体は雪を成す――霊峰の風を運びし純なるかき氷、とくと召し上がれ」
　キセキのキセキ一員、ユキが勤めていた。自身が持つ冷気を小屋内に張り巡らせ、快適な涼しさを保っている。それ故に涼を求める客の姿が後を絶たない。
「はう～～～、冷たいーっ！　やっぱりユキちゃんのかき氷はひんやりして美味しいデス！」
「はぁ、やっぱりここが快適でいいや。獣人の身体だと、外は暑くて暑くて」
　かき氷を頬張り、くつろいでいるのは、ユキと同じPTメンバーであるシーナとシェンロン。二人とも花より団子、海より海の家といった感じで、海水浴もほどほどに小屋の中でまったりしている。そうした時に思い馳せるのは、昔のこと――そしてこれからのこと。
「そういえば……ウチらもあと少しで、アストラに辿り着くのデスね。前とはメンバーも、進む道も違っちゃいましたケド」
　前――とは、今の冒険より以前の出来事であった。シーナには、その記憶があった――崩れて消えた次元での、アストラを目指す冒険の出来事。
「そうですね。あの二人が今どうしているかは分かりませんけど……元気でやっていればいいな」
　シーナとシェンロン、共に同じ過去の冒険を経験した者同士、懐かしむ記憶があった。そしてまた、過去の仲間の一人と縁を持つハレルヤと出会ったのも、必然の運命だったのだろう。そうして新たに集まった４人で、かつて達した場所へ再び向かっている――かつてとは違う道で。
「……って、あれ？　そういえばハレルヤさんは？」
　ふと、同行していた筈のハレルヤの姿が、忽然と消滅していることに気付いた。

　　　　※　　　※　　　※

「ほら兄貴！　こっちだ、こっち！」
「こらっ、だめだよユテル、あんまり沖の方に出ちゃ」
　海面で揺れ動く赤髪と蒼髪――ユテルとセツナの姿だ。羽織っていたシャツを無理やり剥ぎ取られ、遊泳する弟に付き合わされる事となったセツナ。がっちりとした筋肉質な弟の身体つきとは異なり、線は細くもバランスの良いシルエットを形作っていた。
　そんな二人の姿を、海中から伺う金色の髪。
（んっふっふっ……セツ兄、はっけーん）
　ビキニ姿のハレルヤだった。気付かれないよう近づき、海中からセツナの足を引っ張って脅かしてやろうと画策していた。しなやかな脚さばきで水を蹴り、二人に急接近を図る――その時、真横に黒い影が横切った。おもむろに視線を向けるハレルヤ、それは彼女を真正面に見据え、鋭く白い牙を向けている――サメだった。
（――！！！）
　突然の恐怖に、ごぼっと息を漏らし、慌てて海面へと飛び上がる。弟との遊泳を楽しんでいたセツナの眼前に、高く水しぶきが上がった。目の前に突如現れたハレルヤ――の豊満な胸が、彼の顔をすっぽりと覆う。そのまま強く抱きしめられ、セツナの身体が硬直した。
「セツ兄っ！　サメ……サメがっ！！」
　恐怖に駆られたハレルヤが泣き喚く。胸にうずめたままの彼の頭が、海中に沈んでいることに気付かずに。傍らのユテルが青ざめた。
「お、おいハレルヤ……早く離してやらないと、兄貴、死んじまうぜ」
「……はっ！！」
　我に返ったハレルヤが、慌ててセツナの頭を突き放す。ようやく解放されたセツナだが、既に顔は紫色に染まり、目を回していた。気付くのがもう少し遅かったら、本当にアケロン行きだったかもしれない。
「せ、セツ兄ーっ！　起きて、起きてっ！！」
「おい兄貴、寝るな！　寝たら死んじまうぞっ！」
　ハレルヤに肩を揺すられ、ガクンガクンと頭が前後に振れる。僅かに意識を取り戻したセツナ――混濁する意識の中、向き合うハレルヤの肩の後ろに、ゆらゆらと近づくサメの姿を視線に捉えた。次の瞬間、目を見開き、海パンに忍ばせた暗器を素早く取り出し投擲した。※良い子は真似をしてはいけません。
　刃はハレルヤの肩口を掠め、サメの鼻先に命中した。刃を突き立てられたサメは――プシューっと音を立て、見る見る萎れていく。そしてサメの背後から、水着姿の女性が現れ――ぶくぶくと海中に沈んでいった。

　ユテルが沈んだ女性を引っ張り上げ、全員が岸へと戻る。浜上げされた女性――アクラが意識を取り戻し、ジト目でセツナを睨み付けた。
「ぁーぅー……せっかく気持ちよく浮かんでましたのに。プレアから貰った珍しいフロート、これじゃもう使い物にならないじゃないですかっ」
「あれ……浮き輪だったんだ。やったらリアルだったよーな……」
「だから珍しかったんですよっ」
　ハレルヤは勿論、セツナやユテルも本物と見間違う程、精巧に作られていたサメのフロートだったらしい。もっとも、そんなリアルなモノを使っていたこと自体が、傍から見て迷惑だったのかもしれないが……
「しょうがないですねぇ……サモンアニマルでイルカかサメを召喚して、代わりに使いますか。オートマタちゃーん、私の銀ナイフ取ってもらえませんかぁー？」
「「「それは、絶対にダメ」」」
　流石に、止めざるを得なかった。

　　　　※　　　※　　　※

　勿論海で泳ぐだけではなく、砂浜でも娯楽を楽しむ者も大勢居る。
　砂浜で楽しめる絶好のスポーツ――ビーチバレーに興じているのは、風の導き手のメンバーだった。スズ・エドペアと、ノルク・郁葉ペアに分かれての真剣勝負……と言うには、あまりに一方的に見えた。
「ゼェ……ゼェ……肉体労働は、苦手なのだがね……」
「んー……この組み合わせ、どうも悪意を感じるなぁ」
　さすがに体力の無いエドやスズが、体力に優れた郁葉やノルクを相手にするのは、辛いものがあるのだろう。更には視覚的な意味でも、完全に勝てる要素が無かった。
「行くよ、ノルクさん！　はい、トス！」
「せーの、アターック！！」
　力強いノルクのアタックが決まり、砂浜にボールが突き刺さる。ハイタッチする郁葉とノルク。若い女性二人がコート内で大きく動く度に、周囲から歓声が沸いた。男性組（一人は女体化しているとは言え）に送られる喝采の声は、残念ながら無い。
「くっ……せめて一矢報いなければ……！」
　力弱く送られたエドのサーブが、軽々とノルクに受けられ、弾むボールを郁葉がトスする。そして高く跳躍したノルクが、渾身の力でボールを叩き付けた。身を乗り出して受けようとしたスズの身体が激しく吹き飛ばされ、ボールは虚しく砂浜に落ちた。
「ひ……ひどひ……」
　少し遅れて、空中へと投げ出されたスズの身体が地に落ちる。コートを囲む観客から、ひときわ大きな歓声が沸いた。
「21-0、私たちの勝ちです！」
「それではエドくん、スズくん。焼きそばを奢りなさい」

　そんな一方試合が行われている場所から程遠くない位置で、陽だまりの唄のメンバーがスイカ割りを楽しんでいた。目隠しをして棒を握るのは、ショートパンツの水着に着替えたトーイ。余裕の笑みを見せて、離れた位置からスイカの気配を探り、歩み進める。
「真っ直ぐ真っ直ぐ、そのまま進んでー、そうそうそのまま！」
「右！　右！　もーっと右だって！」
「そこでストップ！　もうちょっと左向いてー」
　あからさまに嘘を教えようとするプリシラの誘導に惑わされずに、スイカを前方に捕らえる。そのまま一直線に棒を振り下ろす――確かな手ごたえと共に、スイカが砕け割れた。プリシラが舌打ちし、ニルスが拍手と賛辞を贈る。目隠しを外したトーイに、眺めているだけだったファリスが歩み寄った。
「……トーイ君、さては君、スイカの声を聞いたね？」
　びくっ、とトーイが身を縮めた。思わずファリスから目を逸らす。
「な、何のこと……かなー？」
「いや、ね……彼女がこっそり教えてくれてね。幻妖という種族柄、何か超常的なものも感じ取ることができるのかな」
　ファリスの背後、彼が親指で指し示す先に、既にその場から去ろうとしている幻妖の少女の姿が目に入った。やられた――と、トーイは思う。
「とにかく、今のはちょっとあからさまだったんじゃないかな？　一直線にスイカの位置まで向かっていたのは、確かに見受けられたからね。さて、反則をしたトーイ君には……どうして貰おうかな？」
　にこにこと笑顔を浮かべるファリス――しかし目は笑っていない。青ざめるトーイとは裏腹に、何故かにんまりしながら挙手しているプリシラの姿があった。

　　　　※　　　※　　　※

　熱く照りつける太陽のもと、ひときわ熱気を放つ仮設テントの存在が異彩を放っていた。近くに立つだけで、異常なまでの暑さがその身を襲う。ここでは一体何が行われているのか――というと。
「あ……あづうぅぅ……舌が出ちゃう……付き合うんじゃなかった……」
　既にぐったりして頭をフラフラとさせているぽちが、弱々しく唸る。テントの中には彼と、竹刀・パティア・ハイレオンの計四名、中央に座すイフリートを取り囲むようにして座り込んでいる。燃え上がるイフリートの身体が強烈な熱気を放ち、密閉されたテント内部の空間はまるでサウナの様だった。四人とも、海に漬かっていない筈の水着が多量の水分を含む程、滝の如く汗を流している。
「さーて、中の様子はどーでしょー……うわっ、暑ぅ！　イフリーたん、頑張ってるねー」
　仕掛け人のアメリアが中を覗き見る。やはりと言うか、イフリートは彼女が召還したものらしい。炎天下のガマン大会、これも夏の風物詩――なのだろうか？
「みんな無理しないでね。降参したいときは言ってもらえれば、ユキさんのところのかき氷、用意するから」
「あう～……おいらもう降参～！　かき氷食べた～いッ！」
　救護役のユウが呼びかけると、早速ぽちがドロップアウトした。用意されていたかき氷に飛び付き、灼熱地獄から解放された至福を満喫する。
　中を覗き見るアメリアの目に、依然暑さとの格闘を続ける三人の姿が映り込む。甲殻に覆われたパティアの身体が、まるで茹で上げられたように真っ赤に染まっていた。蒸しサソリって美味しいのだろうか……ふと、邪悪な疑問がよぎった。
「さて、そろそろ暑さだけじゃ物足りないみたいだね……はーい、それじゃ皆さん、今から食事の時間にしましょー！　アツアツ激辛の、カレーを用意しましたー！　ぁ、全部食べ切らないと失格だよ？」
　３つの山盛りカレーが載せられた耐熱トレイをイフリートが受け取り、三人の戦士に配る。たんと盛られたカレーと対峙し、ハイレオンと竹刀の二人は唾を飲み込めずに息を呑んだ。
「食べちゃうよ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
　そんな中、パティアがいの一番に動き出し、スプーンに装ったカレーを口に運び込む。３口、４口と運び込んだ矢先、突然パティアの動きがピタリと止まった。
「――――――！！！！！！！！！！！！！！！！！！！？！？！？！？！？！？」
　真っ赤だったパティアの肌――否、甲殻が真っ青に染まる。目を見開き、体を小刻みに震わせ、腹部を押さえ身悶え出した。目の前でそれを見た二人の血の気がさっと引いた。
「ギ……ギ……ギブアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーップ！！！！！！！！！！！！！！！！」
　慌ててテントから抜け出したパティアは、用意されたかき氷に目もくれず、一直線に仮設トイレへと駆け込んだ。未だ中でカレーと対峙し続けているハイレオンが、口元をひくつかせながらアメリアに尋ねる。
「お、おい……嬢ちゃん、このカレー……」
　けろっとした表情で、アメリアが答えた。
「え？　あ、うん、これ？　プレアさんがリュクレースさんとこで買ってきてくれたの」
　食べられないと書いてあったはずだ！　毒を喰らえ！
　ここであんな劇物を出してくるとは……怖ろしい子！　相変わらず裏で暗躍していたらしいプレアに、ユウは戦慄した。彼女が姿を見せないときは、大抵そういう事なのだから。
「………………ケッ、だがこれを食やぁ、テメーの顔に泥を塗れるんだろ？　……やってやる、俺はやってやるぜ！　俺は負けねぇ、負けねえんだッ！！　――ングッ！」
　妙な闘争心を燃やし、竹刀がカレーに食らい付いた。見る見る顔色を変色させながら、だが確実に皿の中身を減らしていく。
「……クソガキが、杏仁豆腐より甘ェんだよ……俺様がこんなモンに屈すると思ってンのかァ？　飢えた獅子を舐めんじゃねェ！！　――グァッ！」
　同じ勢いで、ハイレオンも皿に貪り付く。闘争心が毒を凌駕し、二人の熱い戦いにより一層の火が付いた。両者一歩も譲らない戦い。狼vs獅子、かつて無い壮絶なバトルが、今始まる――

　　　　※　　　※　　　※

　砂浜の一画で、最も多くの人を集める、ひときわ目立つ舞台セットが組み上げられていた。舞台上に堂々と掲げられた横断幕が、客寄せに一役買っていたのだろう。その横断幕には、こう書かれていた。
『イススィール　夏の水着コンテスト』
　成る程、ギャラリーには男性客が多く見受けられる。舞台上にマイクを持った三人の人影が現れると「おおおぉぉぉ！」と歓声が上がった。三人とも、豊満な胸部をより大胆に見せた、セクシーな水着に身を包んでいる。一人は大人の雰囲気を醸し出す紫髪の女性、一人はうさ耳を装着し小悪魔的な表情を見せ、そしてもう一人は顔を真っ赤に染め上げながら一歩引いた位置に立っている。巨乳三姉妹――そう彼女たちは呼ばれていた。
「ようこそ皆様、お集まり下さいまして。こんなに大勢の人に見て貰えるなんて……お姉さん、とーっても嬉しいワ♪　ゆーっくり、楽しんでいって頂戴ネっ」
　紫髪の長身女性（※元・男）、ママソのマイクパフォーマンス。喋りながらも胸元を小刻みに震わせ、たゆんたゆんと胸部を揺らしている。観客席からは、絶え間なく男の歓声が上がっていた。
「ねぇねぇ、この中の何人が彼女イナイ暦＝年齢のいい歳しちゃったボーヤなの？　あはははは、見下すのチョー快感☆　……あれ？　マイク入ってたの？　まいっかー」
　そして何故か湧き上がる歓声。これはこれで需要があるのだろうか、果たして。
　一方観客席の一画では、レジェンヴィスの一部メンバーが観覧に回っていた。焼きそばを啜っているノルクや郁葉、そしてスズ・エドの隣に、ラゼルの姿もある。たびたび小さなため息を付きながら気もそぞろなラゼルに、スズが声を掛けた。
「ねぇ、どうしたのさ、ラゼル？　浮かない顔しちゃって」
「ん？　あぁ、ちょっとね……残念だな、って思って。ほら、オートマタさんが海に入れないから――って言って、いつもの格好のままで荷物の番をしているから。……はぁ、残念だな、きっと水着姿も可愛いと思うのに」
「あ……そう……」
　ラゼルの回答に絶句するスズ。傍らのエドに向き直り、小さい声で囁いた。
「ねぇエド、やっぱりラゼルって――」
「口を慎みたまえ、スズ君。どんな形であれ、個人の嗜好は尊重すべきなのだから……」
　そんな二人の様子に目もくれず、ため息を付き続けるラゼル。その最中にも、壇上の二人の軽快なトークが進んでいく。
「――さて、前置きが長くなっちゃったわね。皆さんもうガマンできないみたいだし……そろそろ始めちゃうわネ。司会はアタシ、ママソと――」
「ミシシッピアカミミかえるひめこと、通称カエルがお送りするらしいよ？」
「ハナの、三人が……って、えっ？　えっ？」
「ハイじゃー早速、一人目に登場して貰いましょ。ねーねーママソ、一人目は誰なの？　ワクワク、ワクワク」
「こらこらカエル、何言ってんの。一人目の参加者はもうココにいるわヨ？」
「あの……二人とも、何を言ってますの……？」
　一歩後ろにいたハナが、流れから取り残された様子でうろたえている。そもそもは三人で司会を執り行う筈だった様だが――そんな様子を察してか、振り返った二人の表情が、にんまりと歪んでいた。
「んふふふふふふ、実はこれが作戦だったの、ねーママソ」
「ごめんねーハナチャマ、こうでもしないと絶対、舞台に上がってくれないと思ったから……ということでエントリーNo.１、ハナチャマでぇ～～～す♪」
「え……ええええぇぇぇぇぇぇ～～～！！！」
　完全にワナに嵌められたハナは、自身でも意図しないうちに壇上へ祭り上げられてしまった。二人がさっと身を引くと、完全に舞台に取り残されてしまったハナが、きょろきょろと辺りを見回し困惑する。
「えっ……あの……私……っ」
　静まり返った会場の中、期待の視線を一身に浴び、プレッシャーがハナを包み込む。みるみる彼女の肌が紅潮し、ついには耐え切れなくなって勢いよく尻と両膝を突いた。
「も……もう、ダメですのっ！　こんな……恥ずかしいですの～っ！！」
　思わず身を縮こませた結果、両腕が胸元を押さえつけ、谷間を強調する。それが観客からは絶好の角度で視認され、割れんばかりの歓声が会場を包み込んだ。本人の意思とは完全に別の方向で、観衆の評価を得てしまったハナ――これも才能だろうか。
（やった、大成功よ、ハナチャマ！）
　舞台袖でガッツポーズを決めるママソ。かくして熱狂の水着コンテストが幕を開けた。

「セリスです。羊飼いをやっています。アピールポイントはこの髪の毛……欠かさずお手入れをしているのよ。得意なのは家事全般、苦手なものは運動……でしょうか」
　舞台上で自己紹介を行うセリス。あまり華美ではない水着が、本人のその雰囲気と相まって清楚な佇まいを見せ、優しく包むような口調とともに男性客を魅了する。自慢の美しい金髪をふわりと揺らし、軽く首を傾けニコリと微笑むと、観客席からは最初にアピールしたハナの時と同じぐらいか――若しくはそれ以上の歓声が上がり、彼女の人気の高さを伺わせた。
「皆さん、ありがとうございます――あらっ？」
　観客席に向かい手を振るセリスが、ふと一人の男性の熱い視線に気づく。額に開いた第三の目が特徴の、整った顔立ちをした古代人の男性。お互いの目が合った事に気づき、男性も小さく手を振った。途端に、セリスの頬が紅潮する。
「あらぁ……いやだわ、来ていたのね。こんなところを見られちゃって、恥ずかしい……。少し待っていて、これが終わったら、直ぐにあなたのもとへ向かうわ」
　美しい緑眼をきらきらと輝かせ、大仰に手を振り愛しき彼に呼びかける。勿論この展開で、会場の空気は一気に冷え切った。何だ彼氏がいるのか、と各所で舌打ちの音が響いていた。
「サラ、だ。こう見えても機械なんだぜ。ま、こーゆーのはガラじゃあ無いんだけどな……。えーと、そうだな、腕っ節なら誰にも負ける気はしないね。伊達に一枚壁はやってないってもんだ」
　そう言って、力こぶを作って見せるのは機械人間のサラ。一見して人間の体と変わらない質感だが、線の細さの割りに強靭な身体能力を持っているのが、機械人間たる証明なのだろう。ビキニの水着で舞台に立った彼女は、色気というより健康美で観客を存分に魅せ、その人気を博した。
「やーやー！　こーゆーのって、需要があるんだろー？」
　次に現れた少女――の風貌のドワーフ、プリシラがアピールする。いわゆるスクール水着に水泳キャップ（ゴーグル付き）、そして小脇にビート板を抱えて、舞台上を練り歩きながら観客に手を振った。野太い歓声の中に混じって、かわいいー、という黄色い歓声も聞こえた。
「はーい、プリシラちゃんありがとうございましたー。さて、これでエントリーしてくれた全員のアピールが終わ――って、あらあら？　プリシラちゃん、まだ何かやってくれるのかしらー？」
　ママソのアナウンスに割って入るように、舞台袖で待機していたプリシラがぶんぶんと手を振った。カエルが咄嗟に彼女にマイクを渡す。
「悪いなー！　実は友達が、飛び入りで参加したいって言ってるんだけど、いいかー？」
　発言を受けたママソがGOサインを出すと、ぱたぱたと舞台を駆け下りたプリシラが舞台裏へと身を隠す。暫くの後、一人の水着少女の手を引いて、再び壇上に現れた。連れられた少女はワンピースタイプの水着に身を包み、腰には浮き輪を嵌め、つばの広い麦わら帽子を被っている。
「それじゃ、がんばれよー！　レ・ラ・ちゃ～ん？」
　舞台中央に立たされ、少しうつむき加減に佇む少女の口が開く。
「……レラ……です。ぷりしー……プリシラちゃんに誘われて、来ました……よろしくお願いします」
　麦わら帽子から覗くミドルショートの緑髪が揺れる。露出した褐色の素肌が、健康的な南国の少女を思わせた。そして何よりはかなげなその雰囲気が、男性達の心を鷲掴みにした。立ち上がり、熱狂し、怒涛のような歓声が壇上の少女に送られる。
　しかしその観客席の一角では、ニルスが硬直し目玉を飛ばしていた。確信めいた様子で、傍らのファリスに尋ねかける。
「……ねぇ、ファリス。あの子――レラって、もしかして……やっぱり……」
「あぁ、勿論トーイ君だよ……そういえば彼女、あの獣娘にも何か入れ知恵をしていたが……こういう事だったとはね。いやはや、まさか男の娘とは……その手があったか」
　サングラスを指先で軽く持ち上げ、呟くファリス。彼女とは、スイカ割りの時に現れた幻妖の少女の事である。そして彼らと同様に、少女の正体に気づいたギルドのメンバーも一様にして、瞠目するのであった。

　――投票の結果、水着コンテスト優勝者がこの褐色の少女であったことは、言うまでも無い。

　　　　※　　　※　　　※

　事件は唐突に起こった。
　砂浜に飛び交う悲鳴、多量の荷物を抱え疾走する人相の悪い男達、その頭目らしき先頭の男は、小脇に人形を抱えている。小型の爆弾を炸裂させ、爆音と悲鳴を辺りに轟かせながら人ごみを退け道を作る。その男達を追跡するのは、水着姿の冒険者たち。
「こらー！　お前達、待てーっ！　――ほら、しーなさんも、急いで！」
「うわん……待って～、私の服を返して～……ずっと水着生活は嫌デス～！」
　事件に真っ先に気付いたシェンロンとシーナが、見失わないように追跡を続けていた。それから少し遅れて、騒ぎを聞き付けた他の冒険者たちも、男達の逃走経路を追って駆け抜けていく。ラゼルは激しく息を切らしながらも、我先にという思いで必死に全力疾走した。
（絶対に取り戻さなきゃ……俺達のフェレスも、服も――オートマタさんも！）
　時は少し遡り――
　巨大なパラソルの下に、荷物袋がごっちゃりと積み上げられている。そしてその山に寄り掛からせるようにして、少し大きめの人形が置かれていた。
「んー……ヒマですねぇ。荷物番をやると言った手前、動けないのが辛く……」
　誰も居ない筈の場所で、声が響く――否、言葉を発したのはその人形であった。あくせられーたの一員にして、意思を持つ自動人形、オートマタである。人形サイズの短い脚をぶらぶらとさせて、再び呟く。
「あーあ、誰かかき氷とか持ってきてくれないですかしら……うら若き乙女が、浜辺で一人ぽつんと待っていますのにっ！」
　なんて事をのたまいながら、荷物の山に身を投じた。ふと、山の向かい側から人の気配がする。誰かが戻ってきたのだろうか――オートマタは身を起こして、山の向こうを覗いて呼びかけた。
「あ、戻ってきましたね！　ちょっとユキさんのかき氷買ってきてくれません……かぁ――」
　バタリ、と突如意識を失い、荷物の山に顔をうずめ倒れ込んだ。彼女と相対していたのは、眠りをいざなう異界の幻獣・バロメッツ。そして、それを召還したと思われる魔術師の風貌の男。魔法陣を描き幻獣を送還すると、彼の背後から下卑た笑みを浮かべた男が顔を覗かせた。
「よくやったバドラック――こいつにドールドライブされたら一溜まりもねェーからな。寝かしちまえばこっちのもんよ、ハハハァッ！　……よし、ブラッガード！　カラムジー！　てめェら、さっさと荷物を運び出せー！」
　男の号令で、周囲に居た悪漢たちがパラソルの下の荷物をわし掴み、脇に抱え、背負い、奪っていった。リーダー格の男が足元に視線をくれると、眠りこけたオートマタが転がっている。男は、口元をにやりと歪めた。
「てめェは人質だ……ヘヘッ、久しぶりだなァーおい。俺だよ、トレーベだよ！！」
　トレーベとその一味は、人気の無い砂浜の奥――立ち入り禁止区域へと逃げ込んだ。追跡する冒険者たちがロープを越え、区域内に足を踏み入れる。均された砂浜の向こうに、不適な笑みを浮かべたトレーベがオートマタを抱え、仁王立ちしていた。
「ハッ、てめーらのフェレスは、この名高き盗賊トレーベ様が戴いたァ！　返して欲しけりゃ、ここまで来てみやがれ……出来るモンならなァー！」
　ロープをくぐったサラがトレーベの挑発を真に受け、こめかみに青筋を走らせた。
「……ああーん？　小物が、言ってくれるねー。お前らフルボッコにしてやるから、そこを動くなよ」
　のそりのそりと、均されている砂浜に足跡を付ける。数歩足を進めたところで、突如足元から微かな閃光が漏れ――激しく爆発した。
「んなアッ――！！」
　強烈な爆風に吹き飛ばされたサラの身体を、後続のユウとアクラが支えた。傷を負ったサラが――幸いにも水着は破れなかったようだ――うめき声を漏らす。
「な……何だ今のは……ぐうっ」
「ヒャーハハハハァー！！　どォーだァ、俺様特製地雷の威力は！　言っとくがなァ、この辺り一体には、何十個という地雷を埋め込んであるんだぜ。うっかり踏めば、そこの女みたいにドカーンよォ！」
　トレーベと、取り巻きの男たちが一斉に下卑た笑い声を上げる。動きたくも動けない冒険者たちは、悔しさに歯を軋ませた。
「サラさん、しっかり！　――くっ、フェレスが無ければ、まともな回復魔法が使えない……」
「……はぁ、あんな男、私の銀ナイフと邪神様さえ居れば、生贄にして差し上げますのに……」
　ユウもアクラも、フェレスを奪われたことで力を出せず、途方に暮れる。他の冒険者たちも同様に、地雷原へと足を踏み入ることができずに居た。このままでは、逃げられてしまう――焦燥の念に駆られた、その時。
「どォしたどォしたーッ！　こっちに来てみやがれー……って、うおぉぉッ！！」
　トレーベの足元に、長く伸びる影。それに気付き振り向くと、巨大な機械戦士が刀をまさに振り下ろしていた。紙一重で回避するも、腰を抜かし尻餅を付く。見上げた先、逆光に照らされ映るのは、銘刀・紗刃姫を構えた塀派であった。
「ひとつ人の世の生き血を啜り、ふたつ不埒な悪行三昧、みっつ醜き浮世の鬼を、退治してくれよう機械侍！」
　謎の口上を並べ、ポーズを決める塀派。平時と変わらない姿格好で海の家を開いていた為、彼はフェレスを奪われていなかった。そしてトレーベ達の意識がサラたちに向かっている隙を突き、大回りをして裏から奇襲を仕掛けたのだった。思わぬ伏兵の存在に形勢を崩したトレーベだが、身を起こし距離を取ると、懐から新型の爆弾を取り出し不敵に口元を歪めた。
「……クッ、コケにしてくれるじゃねーか。上等だ……おいお前ら、手を出すなよ。こいつは俺様が仕留めてやる」
「フム、一騎打ちでござるか。受けて立つでござる……！」
　塀派が紗刃姫を正眼に構え、トレーベが小脇のオートマタを放り出し体勢を下げる。数秒の睨み合いの後、両者同時に砂を蹴った。二人の間合いが互いの射程圏内に入った矢先、不意にトレーベがバックステップで回避行動を取る――同時に塀派の眼前に、爆弾を放り投げていた。
「食らえッ、これが俺様の……命知らず爆弾だァーッ！！！」
　まばゆい閃光の直後に、すさまじい程の爆風が生じた。耳をつんざく爆音に、離れた位置にいる冒険者たちも思わず屈み込み、耳を覆う。爆音が止み黒い硝煙が晴れると、そこには傷ついたトレーベが膝を押さえて立っていた。塀派は――酷く損傷し、砂浜に伏している。
「ヘ……ヘヘヘッ……どォだ、見たか！　ありったけの火薬を詰めた新型爆弾の威力をよ……！　これが俺様の、真の実力だッ！　ハーッハハハハ！」
　高笑いし、踵を返すトレーベ。放ったオートマタの首根っこを掴み、持ち上げた。じゃり、と砂を踏む音がする。音に気付いたトレーベが振り返ると、ぼろぼろになった塀派が刀を砂地に突き立て、力なくも立ち上がろうとしていた。
「チッ、ンだもう……しつこいガラクタ野郎め。そんなに俺様の爆弾をアジわいたいなら、たっぷりアジわわせてやんぞォ！」
　苛立ったトレーベが、とどめとばかりに複数の小型爆弾を懐から取り出し、一斉に投げつけた。立ち上がった塀派に迫る爆弾。意識が朦朧としているのか、頭を垂れたまま不可解な電子音が鳴り響いていた。
「――ピ、ピピピッ――ピーッ！　――システム、キドウ――」
　キッと顔を上げた塀派の双眸が、赤く光る。目にも止まらぬスピードで素早く刀を振るうと、発せられた剣閃が爆弾を空中で次々と切り裂き、小爆発を起こした。
「クッ……ンなッ！」
　爆風と閃光に思わず目を覆ったトレーベが、再び視界を前方に向ける――硝煙が晴れた先に、塀派の姿が見えない。敵を見失ったことで焦り、勢いよく首を左右に振り回して辺りを見渡し、索敵を試みる。
「どこだッ、あの野郎、どこへ行きやがったッ……！」
「――あっ！　見て、あんなところに！」
　地雷原に足止めされたシェンロンが、上空を指差し叫ぶ。声につられ、他の冒険者も――トレーベも、光射す上空を見上げた。
　そして彼等は見る。青空に浮かぶ太陽よりも、強く輝く月の光を――否、それは陽光を受けまばゆく光る刀身。高々と跳躍し、紗刃姫を振りかざしながら急降下する塀派の姿があった。落下の勢いに乗せ、振り上げた刀を真っ直ぐに下ろし、脳天へと叩き付ける。激しい衝撃音とともに、トレーベの頭が砂浜にめり込んだ。
「……みね打ちだ、改心しなよ……」
　着地した塀派が、刀の持ち手を返し、そのまま鞘へと収めた。そして、一部始終を目撃したトレーベの子分たちを睨み付ける。小さく悲鳴を上げ凍りついた悪漢たちに、鋭く言い放った。
「次は容赦せぬ――怪我したくなければ、荷物を置いてとっとと失せい！」
　一喝された男たちは、諸手を上げて降参の意を表した。その場に盗品をぼとぼとと落とし、伏したままのトレーベを数人で抱え上げ、一目散にその場から逃げ出した。陽光を浴び、長い影を作りながら遠ざかっていく悪人共を見据え、塀派が呟く。
「これにて、一件落着かな……」

「……と思ったんだけど、これ全然、一件落着してないな」
　そう漏らしたサラの視線の先には、未だ寝こけているオートマタを担ぎ上げたまま、不幸にも地雷原のど真ん中でシステムダウンしてしまった塀派の姿があった。

　　　　※　　　※　　　※

　夕日の沈み行く海をバックに、レジェンヴィスの冒険者達は各々荷物を抱え、帰りの道を歩み進む。その一団の中ほどに、眠ったオートマタを背負うラゼルの姿があった。
「……何と言うか、大変だったね……魔法の力とは言え、こんなに寝ちゃって大丈夫かな？　夜眠れなくなるんじゃないかな」
　苦笑し、背中のオートマタに語りかけていた。少し頬が赤く見えるのは、日に焼けたせいだろうか――それとも夕日のせいだろうか。口をむにゃむにゃと動かしているあたり、きっとプリンを食べる夢でも見ているのだろう。
　――地雷原で孤立してしまった二人を助けたのは、一体どこで見ていたのか、神出鬼没の幻妖プレアであった。飛翔能力を持った翼でオートマタを空から救助し、その身をラゼルへと託した。因みに塀派は――いつの間にか立ち入り禁止の看板と入れ替わっていた（プレア曰く「すり替えておいたのさ！」）。
　夕日に照らされた仲間達の顔は、一様に疲れているものの、どこか満足げな表情を浮かべていた。メンバー全員で作った夏の思い出――トラブルもあったが、それもまた一種のスパイスである。今この時が、少し名残惜しいぐらいだった。
　――こういう楽しい時間が、ずっとずっと続けばいい――
　それは誰とも無く、思い巡らせる感情だった。
　一団の最後尾では、勝負に負けたエドとスズ、そしてぽちとパティアが、四人がかりで動かなくなった塀派を運んでいた。そんな若干惨めな彼等の姿を見ながら、ふわりと空中に漂うユキが呟く。
「――何か、忘れてる……気がする――」

　　　　※　　　※　　　※

「ひゃ……ひゃるじゃ、ねへか……ヘッ……みなほしたぜへっ……」
「ゼェゼェ……ン大丈夫か……ぁ……？　オメェ呂律が……回ってねェ……ぜ……」
　夕日が沈み、夜空に満天の星が煌く中――人気の無い夜の砂浜の仮設テントで、暑苦しい男の戦いが今も続いていた。
　燃え盛りながら体育座りで膝を抱えるイフリートを挟み、対峙する竹刀とハイレオン。両者、男の意地を賭けた戦いは、未だ終わる気配を見せない。
　――彼等とともに忘れ去られたイフリートが、最も哀れだったに違いない。



Episode Summer……ＥＮＤ