【ごちゅうい！】
・とっても「誰テメェ」となることがあります。
・とってもポエム。
・とってもポエム。
・とってもポエム。

マジで覚悟完了したヒトだけスクロールしてくださいね？……そんな覚悟で大丈夫か？

by.セツナ

　”少し実家に顔を出してきます。年内には帰るよ”

　そんな手紙を残して此処に来た。
　本当は直接話したかったけど、ついていくなんて言われたら困ってしまう。
　どう考えても、かっこ悪いところばっかり見せてしまいそうだし。

　新暦、十二月。そろそろ僕の国には、雪が降る。


　　　　―　木漏れ陽 “world is waiting for you”　―


　実家に帰るというのは殆ど口実に近かった。

　透き通るような高い冬空と、まだあまり厚くはない雪の絨毯――きっと今日の日差しで溶けてしまうだろう。
　数年前は鈍色と赤で埋め尽くされていたこの地。たくさんの命が消えたこの地。
　今では機械とヒトの手で、そんな景色があったことすら忘れそうな程の霊園に生まれ変わっている。

　やがて僕は”それ”を見つけ、悲しくなって――でも出来るだけ微笑んで、歩み寄る。
　白い石の板をさらに白くしていた雪を、手でそっと払う。
　刻まれているのは、もうここには居ない青年と、その家族の名前。

「誰かと思えば、久しぶり」
　感情の薄い、聞き覚えのある声。
　振り返ると、花束を持った機人の少年が立っていた。
「君は……無事だったんだね」
「パーツは幾つか交換になったけど、コアは大丈夫だったから。もうあれから二年以上になるのか」
　そう言いながら、彼は持っていた花束を石碑の傍らに添える。なぜか妙に慣れた仕草が気になった。
「まあ、時々は来てるから。命の恩人ってやつだし。……命って言っていいのか解らないけど」
「命だよ」
　即答すると、そっか、と彼は笑った。

　　　　*　　*　　*

「――でね、結局……壊しちゃったんだ。後悔してるわけじゃないけど……エルキッドの事、いい加減放っておいた挙句こんな風だなんてさ、酷いかなと思って……謝りに来たんだ。振出しに戻っちゃったし」
　柔らかい陽射しが、落葉した木々の隙間を縫って降り注ぐ。
　風は穏やかで寒さを感じない程。だからかな、いつの間にか話し込んでしまっていた。
「ふうん。やっぱりヒトって良く解らないな。そこまで近付けたのに、勿体無い」
「あはは、どんなロジックも超越する神器が怖いっていうのもあるけど……僕が――いや、世界があの痛みを忘れてしまったら、また繰り返してしまうだろうから」
　あの戦争を肯定するつもりも、否定するつもりも、ない。
　辛くて、悲しくて、怖いという事。――知らなかったら、恐れる事さえ出来ない。朽ちたフェレスの山を見ても、何も感じずに通り過ぎてしまうだろうから。
「……それで、これからどうするつもり？」
「もう一度イススィールに戻るよ。気になってる事とか色々、残して来ちゃったし。……先生には本当、悪いけど」

　　　石に刻まれた文字に触れる。ごめんなさい。もう少しだけ時間を下さい。
　　　あの子の手を掴んで、この世界に連れ出せる程の勇気や強さなんて、まだ僕には無いんです。
　　『――謝るのは、僕の方だ』
　　　左耳に聴こえた懐かしい声。
　　　見回しても姿は見えない。その代わりに、透明な青い影がゆらりと揺らめいた気がした。
　　『あの時、頷いてくれてありがとう――けれど、こんなに重荷になってしまうなんて』
　　　イススィールに居た時から感じてはいた。フェレスに新しく芽生えた心だと思い込んでいた、それは。
　　「せん、せ……？」
　　『……』
　　　声は応えない。けれど確信する。
　　「――そっか、ずっと」
　　　そばにいて、くれてたんだ。
　　　なんだか此処まで来た事が可笑しくなって、笑えてきて。

「――ねぇ、聞いてる？　あの子が居るのは王都の診療所で良かった？」
「え、うん、そうだけど……、」
　どうしてそんな事、と言いかける僕に、呆れ顔で彼は口を開いた。
「あれだけぼくに話しておいて、全部一人で何とかするつもり？　……やること残してるなら早く行きなよ。セツナが掴めなかった手でも、ぼくは掴めるかもしれないでしょ？」
　深い海のような色の髪をかき上げながら、彼はそっぽを向いた。
　頬の色は変わるわけがないけれど、照れ隠しなのかもしれない。

「……ありがと。行ってくるよ」

　　　　*　　*　　*
　世界はきっと、歩き出す君を待ってる。
　その手を掴んであげられるのは、もしかしたら僕でも彼でもなくて、
　僕のそばに居てくれる『誰か』だったりして。

　イススィール。
　エターナルデザイアーが生まれたあの島でなら、そんな方法だって見つかるよね。
　そんな気がするんだ。　

　　　　*　　*　　*

　　　　*　　*　　*

（年内って言ったけど、本当にギリギリになっちゃったな……）
　来年まであと二十二時間。既にギルドの一階は消灯していて、二階の一部に弱い明かりが見える程度。
　ドアベルを鳴らさないようにそっと扉を開け、階段の手すりに手を掛けたところだった。
「――、くしゅっ……」
　客席を振り返ると、ソファのボックス席にひとつの人影。
　誰かが酔って寝ているのだろうか。毛布でも持ってこなきゃと思いつつ、そっと近づいてみて驚いた。
「……ハレルヤ？」
　小声で呼びかけても返事はない。どうやらぐっすり眠っているようだった。右手には、僕が置いていった手紙――。
　着ていたコートをハレルヤに掛けてから、そっと抱き抱える。
　彼女達の部屋、誰か起きてるかな？　毛布があればもう少し暖かいかな？　先にホットミルクでも作っておこうかな？
　迷いながら階段を登ろうとすると、腕の中で身じろぎする気配。視線を落とすと、目が合った。
「あ……っと、起こしちゃってごめん。ただいま」

「……にひひ、一番最初に言いたかったんだー。おかえりッ！」

– fin –