青の幻 “yeah, blue blue hunting!”
【ごちゅうい！】
by.セツナ
・第98回更新でセツナの口調が変だった原因。
・……つまり、僕得でしかない。
・センセー！このヒト描写がド下手です！
・登場人物の方々に全力でごめんなさい。スライディング土下座。
え、本当に覚悟完了できたんですか？ どうなっても知りませんよ！？
「お化け屋敷？」
「はい！丁度木造ですし、雰囲気も出ると思いまして！怖がらせるのは私や塀さん、幻妖のプレアさんにユキさん……とにかく人材は十分と思います」
「構わないけど……僕も怖がらせるのってやっても良い、かな？」
― 青の幻 “yeah, blue blue hunting!” ―
新暦、八月中旬。暑さは厳しいものの、夜になれば秋の虫の声も交じり出すこの頃。オートマタの思い付きから始まった『ギルド丸ごとお化け屋敷計画』の準備が着々と進んでいた。数枚あるうちの最後の暗幕を天井から吊るすため、脚立に登るセツナ。それを下で支えるユテルが不思議そうに問い掛ける。
「そういえば兄貴、お化け役やるって聞いたんだけど、準備とか大丈夫なのか？」
「うん、特にそういうの要らないから平気平気。……あ、ユテル、両面テープ取って！」
床に置いてある幾つかの道具の中から白いテープを手渡す。ユテルの知る限りでは兄が衣装やメイクの準備をしている様子はなかった。そのままでも威圧感のある塀派や、いざとなれば魔術等でどうにかなる者ならまだしも、それほど魔法が得意でないはずの兄はどうやって驚かすというのだろう。
* * *
準備開始から二日後。
せっかくだからとカウンター席だけは残し、訪れた客に軽食や飲み物を提供するようしたせいもあってか、オープンしたお化け屋敷は大盛況。フード担当のラゼルやユウは大忙しだ。
肝心のお化け屋敷はというと、一歩足を踏み入れると天井からぶら下がって来るオートマタ、おそらくプレアが用意したものと思われる得体の知れない物体に、禍々しい気を放つアクラの邪神像。特に、近付くと突然動き出す塀派に腰を抜かす客も少なくなかった。そして――
「ねぇねぇ、最後のほうの青い幽霊さぁ……本物だよね？」
注文されたアイスティーをカウンターに置いたラゼルに、一人の女性客が問い掛ける。
「幽霊なんてうちのギルドには居ないはずだけど……そうだ、とある東方の国では、確か今の時期は”お盆”といってね。亡くなった方が子孫や親しい者のもとを訪れて交流する行事があったりとか――」
「……俺、実際に何度かギルドの中で見てるんだよな……その、幽霊……みたいなもの」
他の客が残した食器類を流し台へと運びながら、ユテルは身震いした。
* * *
「うふふ……っ、やりすぎた……かな……？」
暗闇に慣れた頃の客に、邪神像をそっと近付けて驚かす。その紅い瞳と目が合ってしまったのか大慌てで逃げ出す客をアクラは見送ったが、暗幕の端にふわり、と見慣れないものが見えた。
「ほぇ、あれは……」
持ち場を離れて覗き込むと、床から一メートル程のところに青い影がふわふわと漂っていた。表情こそ見えないものの明らかに人間の形をしたそれは、おそらく店内で噂になっている幽霊に違いなかった。
（本当に幽霊なのかな……それなら……この銀のナイフで……？）
片手に邪神像を抱きかかえながら、出来るだけ息を潜め瞬きもせずに影に近付く。
（これ以上近づいたら気付かれちゃうかな…… 少し心配ですけども……えいっ）
『……ッ』「い……ッた……！」
投げられたナイフが影に命中した瞬間、呻き声がふたつ。聞き覚えのない幽かなものと、良く聞きなれたものがほぼ同時にアクラの耳を掠めた。そして、暗幕の向こう側から倒れこむひとつの人影。ナイフを拾い、ぴくりとも動かないそれに恐る恐る近づくと――それは、目を回し完全に伸びてしまっているセツナだった……。
* * *
このアクシデント以降、青い幽霊は現れなくなり、お化け屋敷は惜しまれつつも予定より早く閉店。程なくセツナも目を覚まし、共に片付けに取り掛かる事となった。
「ラゼルくん、ひとつお願いがあるのですが……」
脚立の上に立ち、覚束ない手つきで暗幕を外すセツナ。脚立を支えるラゼルを振り向く姿も声も彼そのものに違いないのだが、何処か様子がおかしい。
「と、突然どうしたんだ、口調もなんだか変だし……何か変なものでも食べた？ それとも倒れたときの打ちどころが……」
「い、いいえ、そんな事はありませんから、ご心配なく！ えっ……と、ラ、ラゼル、ご無理は承知しておりますが、明日の夕飯は出来れば和食……あとマヨネーズは僕の分から抜いて頂いても構いませんでしょう、か――」
語尾が突然跳ね上がったと思うと、ぐらりとバランスを崩して背からラゼルの上へ倒れこみ、脚立も巻き込んで派手な音を立てた。
「……ッ、すみませんラゼルくん、今すぐ退きますから！ ……やっぱり身体が慣れないうちは下手な事しちゃいけないな……」
そう呟きながら、軽い身のこなしでラゼルの上から退く。口調のせいか小声で呟かれた台詞のせいかは分からないが、ラゼルはぞわりと背中に寒いものを感じた。
* * *
* * *
セツナのおかしな言動と行動はギルドメンバーを不安がらせたものの、数日後にはいつもどおりの彼に戻っていた。
何人かが青い幽霊の正体や数日間の事を訊いたが、彼は「僕のフェレスの住人さんだよ」と冗談か本気なのか判らないような事を笑顔で返すだけだった。
「……ちょーっと窮屈だったけど……ま、楽しそうだったし良かった、かな」
誰かへの語りかけとも独り言ともつかない呟きに、彼の側で青い影がくるりと舞った。
– fin –