【やっと書き終わったのでアップ】 
【脈絡のないのは今更】 
【話的には全然終っていないのに2/2】 
【ウィンのイメージアップ話】 
【質問・疑問・文句・クレーム等どしどし募集中】 
【はじまり、はじまり】 

by.ハレルヤ

「…………他の、誰でもなかった。あたし自身が望んで、繰り返してたん、だ。」

静まった部屋に響くそれは、さながら罪人の独白のような雰囲気を孕む。
―――違う。「ような」だなんて。あたしは、罪人だ。

希望を、欲望を。失望を、絶望を。悲劇を。惨劇を。
叶えたい願いと、響かせたい祈りを巡る、戦いを。
無為なまでに繰り返した、罪人。それが、“あたし”という存在だ。

「………一つだけ、教えて。あたしは何度、これを繰り返したの？」
『はっ！その質問は、お前は今まで食べてきたパンの枚数を覚えているか？ってのと同じ意味だぜ？』
それは明確な数や答えよりも、重く冥くのしかかる言葉。
重い。
もはや取り戻すことは出来ない“もしも”となってしまった数多の縁や願いたち。
その言葉に潰され、前を見据えることの出来なくなった何人もの“あたし”の想いが、あたしの想いになる。

判るよ、“あたし”。
とっても、重いよね。
ホント、潰れちゃうくらいに。

前なんて、見てられないよ。


「……――わかった。」
それでも、あたしは顔を上げた。
「もう、父さんの代わりなんて言える立場じゃない。あたしにも背負う罪があって、あたしにも選ぶ理由があって、あたしだけの戦いがある。――ますます、負けられないじゃん？」
そしてにぃ、と頬を歪めた。――――笑うことが、出来た。
『…………か、かははは！最ッ高に格好いいぜぇ！さすが、背負った十字架の重みを知らない馬鹿は』「知らないからこそ、背負うことが出来るんでしょ？」言葉を遮り返す。へへん、仕返しだ。
「確かに重いよ。願っていないとはいえ、あたしのやったことはとってもとっても、重い。潰れちゃうくらいに。……正直、もうちょっとあんたが現れるのが早かったらあたしも同じように駄目だったかもね。」
でも――と、一旦言葉を切り、瞳を閉じる。
――うん。そうすれば、思い出せる。
「――でも、あたしは一人じゃない、」―そう教えてくれた、彼の言葉を、
「―支えてくれる人が居ること、」―少し困ったような表情の、彼の笑顔を、
「―教えてもらったもの。」―暖かい彼の腕を、あたしは、思い出せる。
そう。今このとき、あたしに出会ってくれた全ての縁があたしを支えてくれているなら、
立ち止まる理由なんて、これっぽっちもない。
「―――だから、潰れないよ。潰れてなんか、あげない。あたしは立って、戦って、そしてあたしを、勝ち取るッ！」


あたしが吼えた決意に、黙殺で返すウィン。
勿論、表情など判らない。
ふと、もしこいつに身体が、顔があったら、どんな顔をしているんだろう…そう思って、やめた。
『………それが、てめぇの決意か？』
首肯で応える。こいつがどう思ってようが、あたしには関係ない。
『………はっ！お前の決意は傑作だが、そりゃお前の頭ン中だけだぜ。
実際、お前自身にゃ力はおろか力を手に入れる術もねぇ。八方塞四面楚歌だっつーの。』
「それでも、なんとかするッ！！」
『あぁ？それが出来ねぇから多くの馬鹿はエターナルデザイアーを望むんだろーが。この大馬鹿ムスメ。
お前が、この次元の唯一のイレギュラーであるお前が、何で今まで“奴”に介入されなかったか解るか？―邪魔に成り得る程度の力も持っちゃいねーからだ。いずれバッドエンドで終る繰り返しで管理したほうが、“奴”にとっちゃラクだからなんだよ』
「う、く……それでもッ」
『じゃぁやはり、神をも凌駕するエターナルデザイアーを手に入れるか？
もっとも、神器を否定したハルトムートと同一であるお前が肯定すれば、産まれた矛盾は理を正すため力の無いものを消すぜ。親殺しの十字架までも背負うたぁとんだ聖女様だなァ？かははははッ！！』
わずかに怒気を孕んだ言葉が、容赦なく幾重にも続く。
じわじわと責めるそれは、逆にそれの難しさを諭すよう聞こえるほどに。
わかってる。所詮変わった事はあたしの決意だけで、現実は恐ろしいくらい静かに変わっていない。―恐怖など、微塵も変わらない。
決意と共に固めた拳が、震えだす。
視界が、歪む。
「でも……！！」
『それにいいのか？たとえエターナルデザイアーを遣わず“奴”を倒したとしても、今度は帰ることが出来ねぇ。それだけの力は、唯一であるミュウという神器以外に存在しねぇ。―いや、そもそもその時“奴”の箱庭であるこの次元が無くならないとは限らねぇんだぜ？主のいないフェレスは、朽ちるからなァ？』
「それでもあたしがなんとかするッ！！」
――それでも、固めた決意は揺るがない。決して。
「100％絶対決まっていることが、挑むってことなの？
100％絶対勝てっこないから、逃げていい理由になるの？
――決まってないから挑むんでしょ？勝てないと思うから逃げるんでしょう！？」
声は震え、涙の雫が落ちたとしても、視線だけは落とさない。
「あたしの事、父さんの事、そして、この島の事……ようやく色んな事が解ってきたのに結局尻尾巻いて逃げるしかないなんて、あたしは絶対嫌！
全てを護る事が出来ないのが運命なら…それが誰かの願いなら！あたしは、抗うッ！！」
『それがあの二人の願いだとしてもか？あぁッ？！』


あたしの聞き間違いだと思った。
「ふた、り…？」
『ハルトムート・トライバルと、シオン・トライバル！お前の両親以外に誰がいやがる？！』
トライバル。
この次元に来て久しく聞いていない、あたしのファミリーネーム。
「なんで、よ……！？それじゃ、あたしが此処に来た意味なんて、それこそ！」
『お前を救う為に決まってんだろうが！！』
ちがう、と声に出したつもりだった。
代わりに涙が零れた。―さっきとは違う、涙が。
『お前がこの次元に送られた本当の意味を教えてやろうか？！―逃がしたんだよ、あの時間の停まった次元から！―元々ハルはな、エターナルデザイアーなんて遠い国のおとぎ話、お前にはそう思ったまま、信じたままでいて欲しかったんだとよ！！』
子供の頃、よく母さんが話してくれたおとぎ話。
父さんの左目の傷の理由を知らなかった、あたし。
―――また、涙が落ちる。
「でも、でも！…そんなの……そんな訳無いっ！あの父さんが諦める訳っ！」
『諦めたんじゃねェ、選んだんだッ！自分達の代わりに逃げてもらうことを、お前に生きてもらうことをなッ！――んな覚悟、する暇すらなかったのに、一瞬で決めやがったんだよあの馬鹿夫婦は！』
―先刻の言葉が怒気を孕んでいたというのなら、これはまさに怒気そのもの。
…どうして怒ってるの？
…どうしてこの涙は、止まらないの？
『お前みたいな馬鹿は、どうせ勝手に勘違いして逃げないとかほざいて立ち向かう。ムダになっちまう…それすらあいつらは解ってたハズだ。本当にどうしようもねぇくらい傑作な奴らなんだよ――だがな！』
……あぁ。そっか。
『それが、親であるあいつらが出来る、たった一つの方法だったんだよッ！』
だから、あんたは怒ってたんだ。
『お前を利用してエターナルデザイアーで願わせる？はっ、傑作もいいところだな！』
気付かないあたしを、怒ってくれてたんだ。
『どんな理由であれ、お前が“奴”に立ち向かうのは結構だ。それでのたれ死のうとな…
だがなァ！あいつらの遺志を知らずに………』

そこから先は、聞こえなかった。
無意識に伸ばした指先は、乳白色の欠片を掴んでいる。
しかし、頬を伝う涙の感覚だけがあたしの全てを支配していた。

「とう、さん…かあ、さん……っ」
ごめんなさい。
―そして、ありがとう。