おいしいプリンの作り方
＋注意＋
by.ラゼル
・プリンのレシピを元に構成されており、レシピメインになってます。
・登場人物（犠牲者）が少ないため、会話がほとんどないです。
・読むのは好きだけど書くのは壊滅的に苦手な人間が書いています。
・同人的な要素？を含みます。
・覚悟のできた方から、順にお進みください。
━━ おいしいプリンの作り方 ━━
外の空は赤く染まっていた。
静かなロビーの中、カウンターの前に一つの人影があった。
「おかえり、額の怪我はもう大丈夫そうだね。」
射しこむ夕日に赤く染められながら呟くと、踵を返して歩き出そうと踏み出した。
──あ
背後から聞こえた声に気づき、足を止めて振り返ろうとすると……
──ガシッ
「イ、イタ……ッ」
後ろ髪を急に掴まれ、引っ張られる。突然の痛みに声を漏らしながら、後ろに手を回すと、何かが髪にぶら下がっているようだった。どうにか捕まえて確認すると──そこには、オートマタの姿があった。
「オートマタさん……いきなりどうしたの？」
「額の怪我で思い出したのですが、シーナさんとニニスさんがラゼルさんのプリンに興味があるそうですよ。」
突然の出来事に混乱しながらも、理由を聞くとギルドの仲間の名前がでてきた。彼女はよくギルドの報告書をまとめている。最近怪我をして、報告書がなくなっている事件があったが、どうやらその時の話らしい。
「それを思い出して、伝えるために頭に飛びついてきた……と。」
まだ痛むのか、頭をさすりながら納得するラゼルを見て、オートマタは満足気にカウンターへと戻っていく。
「……じゃぁ、今度はオートマタさんのプリンをシーナさんとニニスさんに贈ろうかな」
「……！！？」
ボソリと呟かれた言葉に、まるでこの世の終わりのような形相で振り向くオートマタ。その姿に笑いを堪えきれなくなってしまう。
「あはは……心配しなくても、ちゃんとオートマタさんの分も作っておくから。楽しみにしておいて！」
※ ※ ※
翌日、夕日を浴びながら商店街へと歩みを進める2人の長い影。一人は白い髪に白い服に真っ赤な目が特徴的な男、もう一人は背が高く、筋肉質な体にラフな服装をした男だった。
「あちぃ……。荷物持ち手伝うんだから、肉買ってくれよな！肉！」
両手に食材の詰まった袋を提げても、普段と変わらない足取りで肉を求めるユテル。その足取りに感心するも、ユテルの肉好きに苦笑するのはラゼルだった。
「分かってるよ。必要なものは揃ったから、ジャーキー買って帰ろうか。」
「もっとこう、でっかいやつがいいな。肉汁の滴るような……。」
「今度、テラスでいい肉手に入れたらね。──ビーフジャーキー1袋ください。」
不服そうなユテルを横目に、肉屋にさっさとジャーキーを注文するラゼルだったが……。
「おっさん、ジャーキー追加！」
肉の追加注文をするユテルの笑顔に、呆れつつも顔がほころんでしまうのであった。
レジェンヴィスに帰り、食材を冷蔵庫などに片付けていると、ユテルが口を開いた。
「そんなにたくさんの牛乳や卵、一体どうするんだ？」
「プリンを作ろうと思ってね。……オートマタさんにじゃないよ？」
ユテルの不審そうな視線を受けながら、ラゼルはジャーキーを袋を掴むと、ユテルに手渡した。
「はい、荷物持ち助かったよ。ジャーキー２袋も買って……一気に食べないように！」
残念そうなユテルに釘を刺し、キッチンから追いやると、調理道具の確認をし始める。
「道具はどれも大丈夫だし、後はキッチンが空いてからが勝負だな。」
肉や野菜を取り出し、ひとまず夕食の準備に取り掛かるのだった。
※ ※ ※
日が暮れて、皆がベッドにもぐり始める頃、ラゼルはキッチンにいた。
「数が多いし、早めに作って冷やさないといけないな。」
夕方確認した調理器具を並べ、エプロンを身に着ける。レシピを開き、冷たい水で手を洗うと頭が冴えていく感覚を覚える。
「まずはカラメルからだな。先にお湯と水を準備しておくと。」
レシピを見ながら、大きなボウルに水を入れ、お湯を沸かし始める。
「さぁ、始めようか……！」
鍋に砂糖と水を入れて火にかけて、キッチンに甘い香りを漂わせながら、煮詰めていく。透明だった砂糖水が徐々に色づき、カラメルの色へと変わっていく。沸騰するように泡立ったところで鍋の底を水につけてシュゥゥと音を鳴らすと、すぐに水から離す。
「よし。焦げずにできたら、お湯で伸ばして出来上がり。」
沸かしておいたお湯を少しづつ加えて、跳ねるカラメルに気をつけながら伸ばしていく。
「あとは冷めないうちにプリンのカップへ……っとと。」
分量に気をつけながら、次々とカップにカラメルを注いでいくラゼル。カラメルのなくなった鍋やヘラを洗うと、冷めてきたカップを冷蔵庫へとしまい、入れ替わりに牛乳を取り出す。
もう大分遅い時間でキッチンを使う者は他にいない。急ぐ必要もないと、コップに牛乳を注ぎ一息ついていると、聞きなれた声が聞こえた。
「誰かいるの？……ラゼルだったんだ。こんな時間に何してるの？」
レジェンヴィスのマスター、セツナが眠たそうにキッチンに顔を覗かせていた。
「ん、見ての通り牛乳を飲んでるよ。セツナも何か飲みにきたの？」
「それは見れば分かるよ……僕も牛乳にしようかな。」
「プリンを作ってたんだ。今は休憩中……はい、牛乳。」
眠気と呆れの混ざり合った、疲れた様子のセツナに牛乳を手渡す。
「プリンなら、こんな時間にこっそり作らなくてもいいんじゃない？」
プレアによるオートマタのオヨメ騒動のことを言われるかと思ったが──セツナもハレルヤの事があるからだろうか──触れる気はないらしい。
「今回はギルドの皆が食べれるように多く作りたかったから、ゆっくりキッチンを使えるこの時間に、ね。」
ガチャリと冷蔵庫を開け、中に並んだカップをセツナに見せると、納得した様子でうなずき始める。
「こんなに作るんだ……。僕も手伝おうか？」
最近１階のドアや壁が壊れたりしているので、それの修理作業か、あるいは修繕費が心配なのか疲れている様子を見て……元々料理の苦手なセツナに手伝ってもらうのも心配だった。
「一人で大丈夫だから、早く寝たほうがいいよ。」
「そう…？じゃぁ、ラゼルも無理しないように。おやすみ……。」
ふらふらとキッチンを出て行くセツナを見送ると、プリン作りを再開する。 鍋に牛乳を入れ、温めはじめる。温めすぎないように気を使いながら、ボウルに卵を落とす。ボウルの中で黄身が押し合うように揺れるところへ、砂糖を入れていく。
──カチャカチャカチャ
ボウルを傾け、粒ができないように混ぜ合わせる。ボウルの中が斑になり、徐々に黄色一色に染まっていく。
──カチャカチャカチャ
（ユテルと旅に出てから、大分料理も上手になった気がするな……やっぱり、誰かの為に作るからか。）
温めた牛乳を火から下ろし、温度を確かめてから少しだけボウルに注ぐ。牛乳と卵が混ざるように、また混ぜる。
──カチャカチャカチャ
（イススィールに来てから、大事な人が増えたなぁ。こんなに仲間ができるなんて……夢にも思わなかった。）
鍋に残った残りの牛乳も加え、混ぜる。
──カチャカチャカチャ
（皆、喜んでくれるかな……。）
ラゼルの頭に、幸せそうにプリンを頬張る姿が浮かぶ。頭を振って生地を裏ごしする準備を始めるラゼルの顔色を見るものは、誰もいなかった。
（あと少しだ、頑張ろう……！）
鍋にお湯を沸かしながら、生地を裏ごししていく。なめらかになるように、目の細かいもので何度か繰り返す。
冷蔵庫に入れていたカップを取り出し、生地をそっと流し込んでいく。キッチンに並んだ黄色に満たされたカップにふたをして、ぐつぐつと沸騰した鍋の火を止める。
あつつ、と火傷しないように気をつけながらカップを並べるが、入りきらない。
「さすがにこの量を一度に蒸すのは無理だよなぁ。」
苦笑いを浮かべ、まず半分を並べてふたをする。あとは、弱火で蒸しあがるのをじっくりと待つだけだ。
──カッチカッチカッチ
時計の針が時間を刻む音だけが、静かなキッチンに響く。鍋と火を見つめるラゼルの口元が緩む。
（うまくいくかな……。セツナが宝箱を開けるときも、こんな気分なんだろうか。）
さすがに緊張感が違うな、と言葉を漏らし時計を確認する。火を止め、１つ取り出して軽くゆする。ぷるぷると揺れる様子を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
「さあ、後半戦といこうか。」
プリンを取り出し、粗熱を取るためにキッチンに並べ、入れ替わりに残ったカップを並べていく。同じ手順のため、すぐに後半のプリンも温かい鍋で蒸された。
蒸し上がりの前に、粗熱の取れたものを冷蔵庫に並べておき、空いたスペースに蒸しあがったプリンをまた並べる。先に後片付けを済ませて、残りも冷蔵庫に並べると、あとは冷やして食べるだけ。
「完成……っと。これだけあれば十分だろう。」
冷蔵庫に並んだプリンを見て満足気に笑う。昼間冷蔵庫に詰め込まれた牛乳と卵は、プリンとなり整列していた。
「あとは片づけをして、メモでも残しておこう。」
※ ※ ※
レジェンヴィスの1階、カウンターの上。あくせられーたの部屋にいるのか、オートマタの姿はなく、報告書が置いてあるだけだった。
ペンと紙を取り出し、メモを書き始める。
『ギルドの皆へ
プリン作ってみました。冷蔵庫にあるので、良かったら召し上がってください。
多めに作ってあるので、遠慮なくどうぞ！食べ放題です。
by ラゼル』
ペンを戻しメモを報告書に重ねると、ふっと息を吐く。
「元々はプレアの仕業とはいえ、プリン食べ放題……喜んでもらえるかな。」
クスクスと笑いながら、言葉を漏らす。
「さあ……明日はゆっくり眠らせてもらおう……」
あくびをしながら、ゆっくりとした足取りで2階へと上がり、ベッドに潜り込む。あっという間に、ラゼルの意識はぼやけていった……。
──翌朝。レジェンヴィスに響き渡る声によって、ラゼルの願いもむなしく、眠りとともに打ち破られるのだった。
『おいしいプリンの作り方』 ＥＮＤ